電子署名の活用で大学運営業務のトランスフォーメーションを実践する早稲田大学
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時代を切り拓く伝統と校風で、世界に貢献する高い志を持った学生を数多く輩出する早稲田大学。2032年に迎える創立150周年へ向けた「Waseda Vision 150」は現在第2ステージにあたり、「世界で輝くWASEDA」をスローガンに掲げています。情報化については、教育・研究・大学運営におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進と、そのICT基盤の強化によるステークホルダーの満足度向上を基本方針とした取り組みを実践しています。その一環として、同学のDX推進を担当する神馬豊彦氏のチームが中心となり、2021年7月、SAP Signature Management by Docusign(以下、「ドキュサインの電子署名」)の本格導入を開始しました。
合計2万件を超える調達関連契約およびアルバイト雇用契約から電子化を推進
早稲田大学がドキュサインの電子署名を導入した背景について、人事部業務構造改革担当副部長および情報企画部マネージャーを兼務する神馬氏は、次のように振り返ります。
「業務部門のデジタルトランスフォーメーション(DX)は、2018年から推進してきましたが、電子署名導入の大きなきっかけとなったのは、コロナ禍でした。2020年5月、キャンパス一時閉鎖の中での事業継続、6月には政府が押印にかかわる指針を公表したことで、押印廃止の動きが加速しました。学内でも、押印廃止を検討して欲しいという声が高まり、外部セミナーに参加して大学における電子署名の事例などを調査しました。そして、7月より電子署名の本格的な検討を開始しました。」
情報企画課の芝夢乃氏は、電子署名サービスの選定から導入までの取り組みについて、次のように説明します。「関連部署と共に、契約書の数やワークフローなど、現状の把握と分析からスタートしました。その後、具体的なツールの選定を行い、導入に先立って業務フローやルールの見直しも実施しました。その過程の中で、学内で取り扱っている契約件数をカウントしたところ、機密保持契約や売買契約、業務委託契約などの各種調達関連契約、そしてアルバイト等の臨時雇用契約を合わせると、2万件を超えていることがわかりました。そこで、ボリュームの多い臨時雇用契約と調達関連契約から電子契約に切り替えていくことを提案しました。」
同学における調達関連契約は一般企業の購買申請に近いもので、決裁手続きについてはすでに学内のワークフロー処理により電子化されていました。課題は、決裁後の契約書押印のフロー、特に学内の関連部署から押印をもらう業務の煩雑さでした。「契約書を印刷・製本したら、押印書を別に用意します。これは、契約書に押印する印鑑の種類や決裁が完了していることを証明する稟議番号が記載されており、契約書に押印してもらうために必要な書類になります。起案部署の管理職が押印書に押印(許可)したら、押印書と契約書を持って公印管理部署まで出向きます。決裁手続きの適正性などを確認して問題なければ、契約書に押印することになります」と芝氏は説明します。そこで、関連部署間で従来の業務フローを整理して、電子署名により簡略化できる作業を割り出しました。
一方、18,500件を超えるアルバイト等雇用条件通知書の発行から送付、保管までの流れについて、人事課の釘本律氏は次のように話します。「学内で臨時雇用契約と呼んでいる、学生アルバイト等に交付する雇用条件通知書は、学生が授業に参画して教員をサポートするティーチングアシスタント(TA)や、事務業務を補助する臨時職員、学生スタッフなどを雇用する際に必要な書類として交付が法律で義務付けられているものです。その中でも、TA契約は年間約1万件と膨大な数にのぼり、大きな業務負荷がかかっていました。人事課では、雇用する部署から紙で雇用申請書を受け付け、承認されたら雇用条件通知書を発行・印刷し、雇用部署に送付していました。雇用部署は学部や研究科、部署の数だけあり、宛先は50を超えるため、仕分けと送付に多くの人手と時間がかかっていました。また、雇用部署から作業従事者に通知書を渡す方法は、事務所から教員を経由、または直接学生に手渡す方法、なかなか受け取りに来ない場合は郵送するなど、何通りもありました。電子署名を導入すれば、このマニュアルかつ煩雑な業務が大きく改善されると期待しました。」
機能要件を詳細に比較検討しドキュサインを選定
様々な電子署名サービスがある中、選定にあたっては「機能要件を整理して、電子署名のサービス比較サイトや他大学への調査と各ベンダーへのヒアリング、さらにトライアルによる機能の確認を経て、サービスを絞り込みました。選定の段階で重視したのは、本学で想定する運用にマッチした機能が整っているかどうかということです」と芝氏は経緯を振り返ります。
「特に重視したのは、文書を印刷して署名・捺印できるかどうかという点でした。大学側が電子契約に対応していたとしても、先方が紙への押印を希望している場合、こちら側は電子契約で相手側が紙、といった対応ができるかという点は重要な要件として考えていました。さらに、対応言語数やモバイル対応の有無、また製品機能も細かく比較しました。その中で、特定の人だけにメッセージやコメントを表示させることができる機能は、ドキュサインを採用した大きな理由の一つです」と続けます。具体的には、「(調達関連契約では)押印書のやり取りがアナログだったので、電子署名を導入することで押印書を廃止し、システム内ですべて完結できるようなフローを構築したいと考えました。そこで、エンベロープカスタムフィールドを使って、(契約相手先には表示されない形で)決裁手続きに紐づく稟議番号を契約書に入力したり、プライベートメッセージ機能で稟議番号の何番で決裁が完了しているかや、稟議書類の保管先のリンクを管理職のみに伝えることができると考えました」と芝氏は説明します。
改善に向けた取り組みで、目に見える効果を実感
ドキュサインの電子署名を導入するにあたり、同学では「契約相手先が電子契約の利用に同意していることを条件とする」「電子契約用の契約書のひな形を作成する」といった電子契約ならではのルールを新たに設けるなど、スムーズな運用を実現するために既存のルールを見直しました。また、学内の押印者を再検討したり、手渡しやコピー保管といった工程を省略し、業務の簡略化に取り組みました。
さらに、業務フローを刷新し、文書の送信から本人確認、承認(押印)まで、ドキュサイン内で完結するシンプルかつ一気通貫のフローを作成しました。芝氏は「締結済み契約書の保管についても、それまで取り組んできたRPA(Robotic Process Automation)を組み合わせることで自動化し、文書管理システム上の部署ごとのフォルダに自動で保管されるような仕組みを作りました。これにより、各部署の職員は紙保管することなく、それぞれのフォルダにアクセスして、契約書の内容を確認することができるようになりました」と補足します。
こうしたルールや業務フローの変更と合わせて、電子署名の導入により、契約書の印刷・製本や郵送など事務作業の低減、押印・返送に係る事務負担軽減、契約手続きの迅速化、プロセスの透明化、紙保管スペースの削減などの効果を実感している、と芝氏は話します。定量的な効果として、契約1件につき、製本、郵送、押印、ファイリングに係る時間が調達関連契約では約1/2に、アルバイト等雇用条件通知では約1/4に短縮しました。また、費用面では印紙代や郵送代が不要になったことから、年間で約140万円の削減効果がありました。神馬氏は、成果について「計測した値は、トライアル期間のものでしたので、作業の時間も個人による差が大きく、今後ドキュサインの操作に慣れてくれば、さらに短時間で処理できるようになると思います」と話します。
ユースケースを増やし、大学運営業務のトランスフォーメーションを目指す
今後の取り組みについて、神馬氏は「まずは調達に関わる契約と雇用条件通知に関して、段階的に電子契約へと移行していきます。また、今後は学外者との間で重要な証跡を残さないといけないような、例えば論文の審査依頼のようなケースで、ドキュサインが使えるのではないかと考えています。最近では、EU Advanced方式の電子署名を理事会、評議員会の議事録で使用して、法人登記のオンライン申請を利用開始するとともに、受託研究(調査や試験を含む)や共同研究、研究指導(コンサルタント)に関する契約など民間企業との研究契約についても2022年度より対象範囲とすることとしました。さまざまなケースで使えることがわかったので、今後もさらに大学運営業務のトランスフォーメーションに電子署名を活用していきたいと考えています」と展望を語ります。
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