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DXによる攻めの契約管理実践編(1)契約作成段階のDX

Author 宮川 賢司
宮川 賢司アンダーソン・毛利・友常 法律事務所 スペシャル・カウンセル弁護士
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契約プロセスには作成・締結・管理の3つの段階があり、攻めの契約管理を実践するためには各段階に即したDXが必要になります。本記事では、アンダーソン・毛利・友常法律事務所の宮川賢司弁護士が、契約書を作成する段階における主な課題とその解決策について解説します。

      • 課題1:契約の多様性への対応
      • 課題2:効用の不明確さ
              • 課題3:海外契約への対応
                  • リーガルテックの活用

                  目次

                  2020年のコロナ禍以降、電子署名の活用による契約DXが進んでいます。しかし、電子署名の活用は契約DXの一部分に過ぎません。

                  契約プロセスには、主に①作成段階、②締結段階、③管理段階の3つの段階があり、各段階におけるDXが必要となります。本記事では、①契約作成段階のDXに着目し、よく聞かれる以下3つの課題とそれぞれの解決策について検討します。

                  契約作成段階のDXの課題

                  • 課題1:契約は多種多様であり、画一的な契約作成業務が難しい。

                  • 課題2:契約DXの効用が分からない。

                  • 課題3:海外契約について苦⼿意識がある。

                  課題1:契約の多様性への対応

                  1. 契約の類型化

                  契約とは複数当事者の合意ですが、ビジネスにおいては多種多様な契約が存在しますので、これを一律に考えることは困難です。従いまして、様々な指標を用いて契約を類型化しつつその特徴に応じて対応することが有益になります。例えば、下記のような類型化が考えられます。

                  (1) リスクレベルによる分類

                  契約は、その金額等により相手方の不履行リスクが異なります。従いまして、下記のように高リスク契約と低リスク契約に分けて対応を考えることができます。

                  1. 高リスク契約:①契約金額が多額である、②相手方との信頼関係がない、③機密性の高い契約等は、高リスク契約と分類できます。

                  2. 低リスク契約:これに対して、①契約金額が少額である、②相手方との信頼関係がある、③機密性の低い契約等は、低リスク契約と分類できます

                  (2) 準拠法・言語による分類

                  ビジネスがグローバル化する中で、契約にクロスボーダーの要素があるかないかによっても、下記のとおり分類できます。

                  1. 国内契約:①契約言語が日本語、②準拠法が日本法、③相手方が日本法人又は個人の契約は、国内契約と分類できます。

                  2. 海外契約:これに対して、①契約言語が英語等の外国語、②準拠法が日本法以外の海外法、③相手方が海外の法人又は個人の契約は、海外契約と分類できます。

                  2. 類型に応じた解決策

                  上記の類型により注意点が異なりますので、各類型の特性に即したDXを実行する必要があります。

                  (1) リスクレベルに応じた対応

                  1. 高リスク契約:高リスク契約については、各社において対処すべき契約数は多くないと思われますが、一つ一つの契約及び各契約の条文の内容が重要になりますので、一つの契約につき時間をかけて慎重に作成・検証する必要があります。従いまして、各契約の各条文について、相手方の不履行等により想定されるリスクを分析し、慎重に交渉する必要があります。

                  2. 低リスク契約:これに対して、低リスク契約については、個々の契約における不履行リスクはそれほど大きくない一方で、各社において対応すべき契約数が多数存在すると思われます。従いまして、低リスク契約については、慎重さよりも効率性が重視されます。

                  (2) 準拠法・言語に応じた対応

                  1. 国内契約:日本企業の場合、国内契約については適切な先例を集めやすく、社内人材により対処することが比較的容易であると思われます。従いまして、国内契約についてはできるだけ契約データの先例を集積し、社内で対応することが求められます。

                  2. 海外契約:これに対して、日本企業の場合一般的には海外契約については適切な先例を集めることが難しく、社内人材のみで対処できる企業は限られるものと思われます。従いまして、海外契約については当初は外部法律事務所等の知見を最大活用しつつ、例えば特定の国が関連する特定の類型の契約に関する先例が集積されてきたら、ある程度内部でファーストドラフトを作成する等の対応が必要となります。

                  課題2:効用の不明確さ

                  契約作成段階のDXを試みた場合、どのようなポイントに絞ったらDXの効用が得られるのか不明確な場合があります。この点についても、下記のとおり契約類型に応じた対応が有益です。

                  1. 低リスク契約:効率性重視

                  低リスク契約は、個々の契約に内在するリスクは大きくないが、契約数が多いのが難点と思われます。従いまして、下記のような点を意識して効率性重視の観点からDXを進めることが有益です。

                  • 社内規程の整備:低リスク契約は数が多いので、契約金額等に応じて契約承認権者を分けて効率よく契約承認プロセスを構築することが重要です。

                  • 承認プロセスのDX:上記のとおり社内規程を整備したら、実際の社内承認プロセスはワークフロー等のDXで対応することが重要です。

                  • データベース化:上記のとおり承認プロセスのDXのみならず、過去の契約データ(締結済みのPDF版、最終版としてのワード版)をデータベースとして集積し、このデータベースを誰でもアクセスが容易な状態に整理した上で、データベースに基づいて類似の先例から必要な契約作成を始めることが効率的です。その際、自社においてよく取り扱う契約(例えば、業務委託契約秘密保持契約等)については、可能な限り自社に有利な雛型を作成し、当該雛型をベースにファーストドラフトを作成することが効率的です。更に、当該雛型の各条文の根拠や相手方と交渉する場合にどのあたりまで譲ってよいか等の交渉方針等をマニュアルとして残しておくとより社内の意識統一を図ることができ、効率よくかつ安全に交渉ができると思われます。

                  2. 高リスク契約:慎重さ重視

                  (1) 先手を打つ

                  一方で、高リスク契約は効率性よりも慎重さが求められるので、低リスク契約とは違ったアプローチが求められます。 高リスク契約の場合の契約プロセスを分解すると、典型的には、「①商談開始→②基本合意・覚書締結→③契約作成・交渉→④契約締結→⑤契約管理」といった段階を踏んで進んでいくことになりますが、このうち①商談開始や②基本合意・覚書締結のような早期の段階で有利な契約交渉の布石を打つことが重要となります。この点、例えば売買契約やローン契約をサンプルとして検証します。

                  A. 売買契約

                  不動産や株式等の売買契約の場合、典型的には下記のような点について交渉することになります。例えば売主であれば、下記のような交渉ポイントにおいて売主が譲れない条件を早めに固めて、買主候補を選定する段階で当該譲れない条件を提示した上で買主を絞ることが重要です。

                  • 売主の表明保証の範囲、表明保証違反の責任

                  • 売主の誓約事項

                  • 買主の代⾦⽀払前提条件

                  • 損害賠償の範囲

                  • 解除権

                  • 不可抗⼒の定義、不可抗⼒発⽣時の当事者の権利

                  B. ローン契約

                  一方ローン契約においては、典型的には以下のような点について交渉することになります。例えば借主主導で貸主を選定できるような状況であれば、下記のような交渉ポイントにおいて借主が譲れない条件を早めに固めて、貸主候補を選定する段階で当該譲れない条件を提示した上で貸主を絞ることが重要です。

                  • 借主の表明保証の範囲、表明保証違反の責任

                  • 借主の誓約事項

                  • 貸付実⾏前提条件

                  • 期限の利益喪失事由

                  • 担保パッケージの内容

                  (2) 先例の活用

                  上記のように契約類型に応じた交渉ポイントを先取りして①商談開始や②基本合意・覚書締結の段階で先手を打ったら、続く③契約作成・交渉の段階で契約作成の主導権を握ることが望ましいといえます。先例を活用した契約作成の注意点は以下のとおりです。

                  A. よい先例の集積

                  売買契約・ローン契約に限らず、取引を通じて接する契約の中で「よい契約」と思われるものは自社の契約データベースに集積しておくことが有益です。例えば、表明保証・誓約事項・損害賠償・解除権等の条文は、契約の種類が異なっても応用できることがありますので、自社の権利を適切に保全できていると思われるよい先例を集積しておく必要があります。

                  B. 契約データベースへのアクセス確保

                  よい先例を集めても、それを使いこなせる人が少数の経験ある役職員だけではDXの効果が薄れますので、よい先例を集積したらそれらを誰でもアクセスできる状態にした上で関連する部署に周知徹底することが必要です。これにより、ノウハウの属人化を防ぐことができ、人事異動等に柔軟かつ迅速に対応できることになります。

                  C. デジタルとアナログの融合

                  上記の通り契約データベース化を進めたとしても、デジタル偏重では相手方との交渉に勝てませんので、下記のようなアナログ対策も併用しつつ交渉に備える必要があります。

                  • 交渉の現場では、単に先例を相手方にぶつけても説得力が低いので、「本件契約においてどうしてこの条文が必要で、当該条文の内容が合理的か」を説得的に相手方に説明する必要があります。従いまして、契約交渉に携わる役職員は若手の段階から契約交渉に参加して相手方を説得する技術を肌で身に着ける必要があります。

                  • 上記の通り実際の交渉で身に着けたノウハウ等について、それを自らの頭に留めておくだけではノウハウが属人化しますので、案件の特徴や交渉ポイント等をデータとして集積し社内で共有することも重要です。

                  課題3:海外契約への対応

                  1. 選択と集中

                  海外契約については、国内契約以外の契約を全て含み範囲が非常に広いので、全ての関連海外契約を一律に扱うことは非効率と言えます。従いまして、自社のビジネスにとって優先順位の高い国(例えば、アメリカ・中国等)から集中してよい先例を集積し知見を高める必要があります。その際には、以下のようなポイントを意識しながらノウハウを集積する必要があります。

                  • 海外契約においては、相手方の国における法制や実務を踏まえて条文が作成されますので、国内契約との違いを意識しながら理解することが有益です。

                  • また、海外契約においてもよい先例を集積し、当該先例の各条文の意味を吟味しつつ理解することが重要です。

                  • 先例の条文を理解する際には、当該契約のファーストドラフトから交渉過程を経てファイナルドラフトに至る過程における両当事者の主張と最終的な着地点を段階的に理解することが重要です。

                  2. デジタルとアナログの融合

                  海外契約においても、上記高リスク契約で検討したようにデジタルとアナログの融合が重要になります。

                  • デジタル

                    • よい海外契約の先例をデータベース化する

                    • 関連する海外法令等の最新情報をデータベース化する

                    • 上記データについて、関連するすべての役職員がアクセス可能なものとしこれを周知徹底する

                  • アナログ

                    • 若手従業員の海外留学・海外法律事務所への出向、あるいは海外契約の経験がある人材の中途採用等により、海外契約対応人材を育成又は獲得する

                    • 上記のような海外契約対応人材について、海外契約の交渉の現場において経験ある役職員又は外部法律事務所の弁護士等から交渉技術を学ぶ

                  リーガルテックの活用

                  上記課題1乃至課題3の全ての問題について、リーガルテックを活用することでスムーズにDXを進めることができます。全ての分野においてリーガルテックを導入すると入口でつまずくおそれがあるので、下記のような範囲のうちできるところからスモールスタートで段階的にリーガルテックを導入することが現実的です。

                  • 契約のデータベース化

                  • AIによる契約レビュー補助

                  • オンライン会議の議事録作成補助→契約への反映

                  • AIによるリサーチ補助

                  • AI翻訳

                  リーガルテックの活用に関しては、2023年8月に法務省によるガイドライン*も公表されており、基本的にリーガルテックを推進する方向性になっています。リーガルテックを最大限活用してDXを進めることにより、企業の法務機能を高めて企業の国際競争力を高めることが求められています。

                  * 法務省:弁護士法(その他)

                  Author 宮川 賢司
                  宮川 賢司アンダーソン・毛利・友常 法律事務所 スペシャル・カウンセル弁護士

                  1997年、慶應義塾大学法学部卒。2000年、司法修習(52期)を経て弁護士登録(第二東京弁護士会)。2000年から2014年まで田中・高橋法律事務所(現事務所名 クリフォードチャンス法律事務所)勤務。2004年、英国University College London (LL.M.)修了。2014年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所。2019年、慶應義塾大学法学部非常勤講師(Legal Presentation and Negotiationを担当)。主に電子署名等のデジタルトランスフォーメーション(DX)に関連する業務や、気候変動・カーボンクレジット等のグリーントランスフォーメーション(GX)に関連する業務を取り扱う。DX関連では、金融機関や事業会社を含め、多数のDX関連業務のサポートを行う。主な著書は、「電子署名活用とDX」(きんざい、2022年)等。

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