文章作成はAIにお任せ?!生成AIが世界に与えたインパクトとこれから
昨今、世界的に大きな話題になっている「生成AI」。火付け役となったOpenAIの「ChatGPT」のほか、Googleの「Bard(バード)」、Microsofの「Copilot(コパイロット)」など各社サービスを比較しながら、生成AIの最新動向から、国内外の反応や対応までをわかりやすく解説します。
昨今、世界的に大きな話題になっている「生成AI」。火付け役となったChatGPTは、2022年11月30日にプロトタイプとして公開されると、瞬く間に人々の間で広がり、ユーザーが増え続けています。ITの世界では、1億人のユーザーを獲得するまでの期間が人気の度合いとしてよく語られますが、Facebookが4年半、TikTokが9ヶ月かかったのに対し、ChatGPTはわずか2ヶ月で1億人のアクティブユーザー数を記録しています。
本記事では、ChatGPTをはじめとする生成AIの最新動向を解説するとともに、海外および日本における反応や対応を紹介します。
高いクオリティで登場した生成AIに世界中が注目
ChatGPTとは米OpenAI社が開発・公開した人工知能チャットボットサービスのことで、自然言語処理技術を使用し、会話形式でやり取りできるのが最大の特徴とも言えます。ChatGPTのGPTは、Generative Pre-trained Transformerの頭文字を取っており、日本語に訳すと、「生成可能な事前学習済み変換器」となります。深層学習により人間のような文章を生成する、自己回帰型の大規模言語モデルGPT-3をもとに構築されており、テキストで命令を提示すると、それを継続する形でテキストを生成します。現在の無料版の使用エンジンはGPT-3.5、有料版使用エンジンはGPT-4となっています(2023年6月現在)。
例えば、「電子契約の重要性と活用法」というブログ記事を書くとします。まず、検討すべきことはブログの構成です。入力窓に「ビジネスパーソンを対象に『電子契約の重要性と活用法』というブログを制作したいから構成を考えて」と入力し送信ボタンを押します(GPT-3.5を利用した場合)。すると、複数の段落からなるブログの構成を提案してくれます。次に、ブログ構成をタイトルごともう一度入力し、「この構成でブログを制作したいから、『1. イントロダクション』を堅めの論調で書いて」といった具合に注文を出します。これを繰り返していきます。20分ほどで6,000字を超えるブログ記事ができあがりました。内容も説得力があるように見えます。十分詳しい知識を持っている専門家だったとしても、ものの数十分でこれだけの文章を書くのは容易ではないでしょう。
ちなみに、GPTZero(https://gptzero.me)のようなAIの介在を検知するツールも登場しており、文章を入力すると、人間が書いたか、AIが書いたかを推定してくれます。
前向きな「危機感」と後ろ向きの「危機感」
大きな存在感を発揮する生成AIに多くの人々が驚嘆する一方、その能力の加速に対して、特にIT業界では「危機感」が現れ始めています。
Googleは、ChatGPTの登場を契機に、全社に対し「コードレッド」(緊急事態宣言)を発動しました。その背景には、検索エンジンが使われなくなるかもしれないという危惧があります。そして、対話型AIの開発強化に入り、市場投入したのが「Bard」です。当初は、2021年に公開した言語生成AI LaMDA(Language Model for Dialogue Applications)を利用して開発されましたが、2023年5月からは多言語対応や計算能力などが向上したPaLM2が搭載され、日本語にも対応しました。試験運用の段階ですが、実際に前述の条件で記事を作成してみたところ、ChatGPTよりかなり高速であるという印象があります。ただし、ChatGPTほど長い文章ではなく、段落の区切りも苦手なのか、聞くたびに一部同じ回答が混じっています。一方で、Google Bardは回答案を複数提示してくれるという利点があります。質問条件を変えれば、また違う結果が出るかもしれません。
Microsoftも、AI Copilot(コパイロット)をMicrosoft 365アプリケーション全般に搭載すると発表しました。これは、GPT-4ベースの大規模言語モデルLLMとMicrosoftテクノロジーを統合することで実現するものです。例えば、Wordに搭載されたCopilotは、文章作成や要約、人が作成した文章へのフィードバックを行えます。また、Excelに搭載されたCopilotは、データの可視化が行えます。Microsoftは、ChatGPTやCopilotを企業の自社開発アプリケーションでも利用できるようにする開発ツールを提供することも発表しています。現時点では、GPT-4を搭載したBing AIチャットが、Microsoftアカウントにサインインすると複数のブラウザで利用できます。Bing AIを使っても、ブロック区切り法により「電子契約の重要性と活用法」の記事を作成することができました。Bing AIチャットは、一部の回答について出典を明らかにしているのが特徴と言えます。
一方で、生成AIの浸透スピードに待ったをかけようという後ろ向きの「危機感」も現れています。これは、生成AIが作成した文章の正確性に対する責任や、ユーザーの入力した情報がAIの学習に用いられ、データのプライバシー保護に疑念があるとされたからです。例えば、ChatGPTの登場直後、イーロン・マスク氏がGPT-4より強力なAIの開発と運用を最低6カ月間停止するようにとの呼びかけに応じたのは有名な話です。しかし、マスク氏はその後一転して、AI TruthGPTの開発を表明し、インタビューの中で、「宇宙の本質を理解しようとする最大限の真理を追求するAIを始める」と語っています。
各国政府は、生成AIが活用できる現場にも反応を示しています。米国では、ChatGPTのようなタイプのAIにルールを設けようとしており、カナダのプライバシー委員会は個人情報の扱いを懸念してChatGPT開発元の調査を開始することを発表しました。また、EUでは生成AIに対する厳格な措置を準備しています。日本においても、生成AIは成長の大きな機会である半面、機密情報の漏えいや間違った情報、著作権侵害、生成AIの隆盛による失業者の増加などのリスクに対して、既存の法令やガイドラインで対処できないなら、必要な対応を検討すべきであると論点を整理しています。
大学では、上智大学がレポートや学位論文などにChatGPTなどのAIチャットボットが生成したものを使用することを認めないと公表しています。ただし、教員の許可があればその指示の範囲内での使用は可能です。東京大学では、同学の「生成系AI(ChatGPT、BingAI、Bard、Midjourney、Stable Diffusion等について」というWebページで、メリット、デメリットを具体的に記述し、対応すべき点について発信しています。産業界では、アップル、アマゾン、ソフトバンクといった企業が、現時点でChatGPTの利用を制限しています。
生成AIが得意なこと、苦手なこと
しかし、現在懸念されているリスクが法令や技術などによって解決すれば、生成AIは大きな可能性を秘めているといえます。得意な点を生かすことによって、私たちは仕事の効率化を進めていくことができます。生成AIの得意な分野とは、文章作成・要約・添削・校正、提示した文章へのフィードバック、未来予測、翻訳、プログラミング、アイデアの提案、画像生成などです。新しい合意・契約のあり方を提案するドキュサインにおいても、生成AIを活用した契約書の要約機能を提供しています(米国のみ)。
一方で、不得意な点もしっかり認識しておく必要があるでしょう。例えば、ChatGPTはすべてのジャンルの情報に精通しているわけではないため、情報の少ないジャンルについては不正確な情報を提供する可能性もあります。また、人間的な感情を持っていないため、意見や感想を述べるのは苦手なようにも見受けられます。また、無料版ChatGPT-3.5については、2021年9月までの情報を元にしているため、それ以降の情報については回答を提供できません。依然として、現時点では個人情報、機密情報の入力については控えたほうが賢明であると思われます。情報の出典が明らかにされないことで、成果物について誰が責任を持てるのかという課題も残っています。
AI時代に「人間はどうあるべきか」
前述した東京大学のWebサイトの中には、「人類はこの数カ月でもうすでにルビコン川を渡ってしまったのかもしれない」との記述があります。これは、人類が後戻りできない道へと歩み出したということを意味します。人間は生成AIとともに生きる世界を、どのようにしてよいものにしていけるか、人間がより人間らしく生きるためにはどうすればいいのか、真剣に考える時期が来ているのではないでしょうか。
なお、「AI総合研究所」では生成AIに関するさまざまな情報を発信しています。あわせてご覧ください。
おすすめ記事:ChatGPTはSEO対策に活用すべき?AIを使った記事作成の方法や注意点を解説|Rank-Quest
※本記事に記載の内容は執筆時点での情報になり、AIを取り巻く環境は刻々と変化していることから、最新性、正確性、完全性あるいはその質を保証するものではありません。また、各サービスの利用については、ライター個人の感想が含まれています。