生成AIによるコンテンツの知的財産権の取り扱いと法的整理
近年、生成AIが加速度的な進化を遂げています。ユーザーは、生成AIを活用して業務の効率化に取り組むことができる反面、生成コンテンツが著作権侵害にあたるリスクについて理解しておく必要があります。本記事では、生成AIで生み出されたコンテンツに関する知的財産権(著作権)の取り扱いにについて論点整理をまとめました。
テキスト・画像・動画・音楽など、さまざまなコンテンツの制作に有用と考えられる「生成AI」は、近年加速度的な進化を遂げています。ユーザーは、生成AIを活用して業務の効率化に取り組むことができる反面、生成されるコンテンツが著作権侵害にあたるリスクについて注意が必要です。本記事では、生成AIで生み出されたコンテンツに関する知的財産権(著作権)の取り扱いについて、2024年2月時点での論点整理をまとめました。
生成AIでできること−コンテンツ作成にも盛んに利用されている
2022年ごろから急速に認知度が高まった生成AIは、すでに幅広い人々に利用されています。ドキュサインが実施したインターネット調査「生成AIに関する意識・実態調査」によると、2024年1月時点において、業務で生成AIを利用している人の割合は31.9%で、試験的に利用している人(25.6%)を合わせると半数を超えています。
Q. あなたは日常業務の中で、生成AIツール/アプリケーションを使っていますか。
生成AIの用途としては、テキストの作成に利用しているとの回答が多数に上っています。例えば、記事シナリオの作成については、40.8%の人が生成AIを利用したことがあると回答しました。また、いまだ比較的少数ではあるものの、画像(10.5%)・動画(9.3%)・音楽(4.5%)の作成に生成AIを利用しているとの回答も見られました。生成AIの技術の進展に伴って、これらのコンテンツに生成AIが利用される頻度も増えていくものと予想されます。
Q. 実際にどのような業務で「生成AI」に関するツールやアプリケーションを利用していますか。
生成AIによって作られたコンテンツの著作権は?法律上の論点を解説
生成AIを利用して制作されたコンテンツ(以下「生成コンテンツ」)については、著作権に関する論点整理が有識者の間で進められています。*1
生成コンテンツに関する著作権法上の問題は、以下の2つに大別されます。
生成コンテンツには著作権が認められるのか
生成コンテンツが他人の著作物と似ている場合、著作権侵害は成立するか
1. 生成コンテンツには著作権が認められるのか
1つ目の問題は、「生成コンテンツには著作権が認められるのか」という点です。
著作物は「思想または感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)とされているため、思想や感情が一切介在せずに制作されたコンテンツには著作権が認められません。
つまり、人間が全く介在せず、生成AIが独自に生み出したコンテンツは、著作権によって保護されません。著作権の保護を受けるためには、人間が生成AIを道具として利用し、自らの思想や感情をコンテンツの形で表現したといえる必要があります。
生成コンテンツが著作権によって保護されるかどうかは、「創作意図」と「創作的寄与」という2つの観点から判断すべきであると解釈されています。
(a)創作意図 制作者において、人間の思想または感情をコンテンツの形で表現しようとする意図がなければ、著作物とは認められません。
(b)創作的寄与 コンテンツに対して、人間の創意工夫が何らかの形で反映されていなければ、著作物とは認められません。
創作意図については、「自らの個性が表れた何らかの表現物を作る」という程度で足りると解釈されているため、著作権が認められるためのハードルはそれほど高くないと考えられます。
一方、創作的寄与の有無については、コンテンツの生成過程におけるAIの使い方などを総合的に評価して判断されます。
しかしながら、具体的にどのような制作者の関与が必要なのかについては、さまざまな見解が存在し、論点整理は発展途上の段階です。例えば、複数の生成コンテンツの中から公表するものを選択するだけで、創作的寄与を認める見解があります。これに対して、生成コンテンツを選ぶだけでは足りず、さらにコンテンツの生成にあたってパラメータ(プロンプト)を利用者が自ら設定したとしても創作的寄与を認めないとする見解も存在します。
著作物の要件となる創作的寄与の有無については、今後のAI技術の発展および事例の集積を踏まえて、今後議論が整理されていくものと考えられています。
2. 生成コンテンツが他人の著作物と似ている場合、著作権侵害は成立するか
2つ目の問題は、「生成コンテンツが他人の著作物と似ている場合、著作権侵害は成立するか」という点です。
この問題については、以下の二段階に分けて論点整理が行われています。
(i)開発・学習段階 大量のコンテンツデータを機械学習する段階
(ii)生成・利用段階 学習済みの生成AIを用いて新たなコンテンツを生成し、公表する段階
開発・学習段階における既存著作物の利用については、2019年1月1日に施行された改正著作権法によって立法的な解決が図られました。
同改正法によって新設された著作権法30条の4では、著作物に表現された思想または感情を自ら享受し、または他人に享受させることを目的としない場合は、著作権者の利益を不当に害しない限り、著作権者の許諾なく利用できるものと定められています。
生成AIによる機械学習は通常、それ自体が人間による著作物の「享受」を目的とするものではないため、原則として著作権者の許諾を要しないと考えられます。ただし、有償での利用が一般化しているコンテンツデータについては、無許諾での利用が著作権者の利益を不当に害し得るため、生成AIの開発・学習目的であっても著作権者の許諾を得なければなりません。
生成・利用段階における既存著作物の利用については、「類似性」と「依拠性」の2つの要件をいずれも満たす場合に限って著作権侵害が成立します。基本的には、類似性が認められれば依拠性も認められるケースが多いと考えられます。
(a)類似性 既存著作物と新著作物が同一であり、または類似している場合には類似性が認められます。類似性の有無は、既存著作物の表現の本質的な特徴を、新著作物から直接感得できるかどうかによって判断されます。
(b)依拠性 新著作物が既存著作物に依拠して生み出された場合には依拠性が認められます。生成コンテンツに関する依拠性の有無の判断基準については見解が分かれており、一例として以下のような見解が存在します。 ・機械学習させたコンテンツについては、一律で依拠性を認めるべき ・機械学習させたコンテンツのうち、生成コンテンツと類似しているものについては依拠性を推定すべき など
AI時代の知的財産権(著作権)に関する今後の展望
生成AIは、実際に広く活用されるに至ってからまだ期間が短いため、実際に著作権侵害などが争われた事案は現時点で少数です。しかし、今後ますます生成AIの利用が普及すれば、それに伴って生成コンテンツに関する紛争事案も増えることが想定されます。
国内では文化庁・学者・弁護士などを中心に、生成コンテンツに関する論点整理は引き続き進められています。しかし、実務における生成コンテンツと知的財産権の取り扱いが確立するまでには、十分な裁判例の集積を待つか、または法改正などによる立法的解決が必要になるでしょう。
生成AIの利用者としては、著作権をはじめとする知的財産権のルールを理解した上で、必要に応じて先行コンテンツの調査などを行い、著作権侵害のリスクを回避するよう努めることが求められます。取り扱いが不明確な部分については、弁護士などの専門家に対応のアドバイスを求めることをおすすめします。
ゆら総合法律事務所・代表弁護士(埼玉弁護士会所属)。1990年11月1日生、東京大学法学部卒業・同法科大学院修了。弁護士登録後、西村あさひ法律事務所入所。不動産ファイナンス(流動化・REITなど)・証券化取引・金融規制等のファイナンス関連業務を専門的に取り扱う。民法改正・個人情報保護法関連・その他一般企業法務への対応多数。同事務所退職後、外資系金融機関法務部にて、プライベートバンキング・キャピタルマーケット・ファンド・デリバティブ取引などについてリーガル面からのサポートを担当した。2020年11月より現職。一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。弁護士業務と並行して、法律に関する解説記事を各種メディアに寄稿中。