電子契約を利用する際、紙の契約書からの文言変更は必要?注意するべきポイントを解説
電子契約サービスを利用する際、紙の契約書のひな形はそのまま使えるのでしょうか?書面契約でも電子契約でも文言は大きく異なるものではありませんが、電子契約ではそぐわない文言や表現が一部存在します。そのため、あらかじめひな形の文言を変更・調整しておく必要があります。
電子契約サービスを利用する際、紙の契約書の文言の大部分をそのまま用いることができます。ただし、電子契約ではそぐわない文言や表現が一部存在するので、あらかじめひな形の文言を変更・調整しておく必要があります。
本記事では、電磁的方法で契約を締結する場合に、紙の契約書から文言を変更すべきポイントや、紙の契約書と電子契約書それぞれの違いから、表記上、気をつけるべき点を解説します。
電磁的方法で契約を締結する際、紙の契約書から文言の変更をすべき箇所とは
電子契約書の文言は、紙の契約書と大きく異なるものではありません。取引の内容が同じであれば、文言の大部分が共通しています。ただし、以下のポイントについては、電磁的方法で契約を締結する際に紙の契約書から文言を変更したほうがよいでしょう。
後文
書面の交付を必須としている条項
1. 後文
「後文」とは、契約書の本文の後に記載する文章です。後文の内容は定型的な文言になりますが、紙の契約書と電子契約書では、運用上そぐわない点があるため、文言の変更が必要となります。
紙の契約書の後文としては、以下のような内容を記載するのが通例です。契約書を作成する通数や保管者などを記載します。
【紙の契約書の後文例】
①当事者が2人(2社)で、原本を2通作成する場合 本契約の成立を証するため、本書2通を作成し、甲及び乙がこれに記名押印又は署名捺印のうえ、各自1通ずつを保有する。
②当事者が3人(3社)で、原本を3通作成する場合 本契約の成立を証するため、本書3通を作成し、各当事者がこれに記名押印又は署名捺印のうえ、各自1通ずつを保有する。
③当事者が2人(2社)で、原本を1通だけ作成する場合 本契約の成立を証するため、本書1通を作成し、甲及び乙がこれに記名押印又は署名捺印のうえ、甲が原本を、乙がその写しを保有する。
上記の後文例は、いずれも紙の契約書の原本を作成することを想定したものです。
これに対して電子契約の場合、ファイルを容易に複製できるため、原本を複数作成する必要はありません。また、紙の契約書は記名押印または署名捺印をして締結するのに対して、電子契約書は電子署名を行なって締結するという違いもあります。
そのため、電磁的方法で契約を締結する際には、後文として以下のような文言を記載します。
【電子契約の後文例】
本契約の成立を証するため、本電子契約書ファイルを作成し、甲及び乙が電子署名を行い、各自その電磁的記録を保管する。なお本契約においては、電子データである本電子契約書ファイルを原本とし、同ファイルを印刷した文書はその写しとする。
紙の契約書のひな形を電子契約にも用いる場合は、上記の記載例を参考にして、後文の内容を差し替えて調整しましょう。
2. 書面の交付を必須としている条項
契約書の中には、契約上の手続きについて書面(=紙の文書)の交付を必須としている条項が含まれていることがあります。
【書面の交付を必須としている条項の例(紙の契約書)】
①秘密情報の開示を禁止する条項 情報受領者は、情報開示者の事前の書面による承諾がない限り、秘密情報を第三者に開示することができない。
②契約の有効期間に関する条項 本契約の有効期間は契約締結日から1年間とし、いずれかの当事者が相手方に対して、期間満了日の1カ月前までに書面による契約終了の意思表示をしなければ、さらに1年間更新され、以後も同様とする。
しかし、契約書を電子化したにもかかわらず、契約上の手続きを紙ベースで行うのは煩雑です。上記のような条項が定められている場合は、電磁的な方法も許容する文言に変更するのがよいでしょう。
【電子的な方法を許容する条項例】
①秘密情報の開示を禁止する条項 情報受領者は、情報開示者の事前の書面または当事者が合意した方法の電磁的記録による承諾がない限り、秘密情報を第三者に開示することができない。
②契約の有効期間に関する条項 本契約の有効期間は契約締結日から1年間とし、いずれかの当事者が相手方に対して、期間満了日の1カ月前までに書面または当事者が合意した方法の電磁的記録による契約終了の意思表示をしなければ、さらに1年間更新され、以後も同様とする。
紙の契約書と電子契約書の相違点
電磁的方法で契約を締結する際には、契約書の文言変更のほかにも、紙の契約書との違いがあります。例えば、収入印紙の有無です。
紙の契約書の場合、印紙税の課税文書に該当するものには収入印紙を貼付する必要があります(印紙税法)。印紙税の課税文書にあたるかどうかは、契約内容によって決まります。
印紙税の課税文書の例(*1)
不動産売買契約書
土地賃貸借契約書
金銭消費貸借契約書
運送契約書
工事請負契約書
合併契約書
吸収分割契約書
新設分割契約書
取引基本契約書
業務委託契約書
信託契約書
保証契約書
金銭または有価証券の寄託契約書
債権譲渡契約書
債務引受契約書
これに対して、電子契約の場合は収入印紙を貼付する必要はありません。印紙税は課税文書を作成した者に対して課されるところ、電子契約の締結およびファイルの送信行為は、いずれも課税文書の作成にあたらないとされているためです。ただし、電子契約書ファイルを印刷した書面を相手方に交付したときは、印紙税の課税対象となります(*2)。
まとめ
電子契約を導入する際には、紙の契約書との違いを理解した上で、後文や書面の交付を必須としている条項などの文言を変更・調整しておく必要があります。具体的な変更・調整の方法は契約内容によって異なりますので、弁護士に相談することをおすすめします。
参考:
ゆら総合法律事務所・代表弁護士(埼玉弁護士会所属)。1990年11月1日生、東京大学法学部卒業・同法科大学院修了。弁護士登録後、西村あさひ法律事務所入所。不動産ファイナンス(流動化・REITなど)・証券化取引・金融規制等のファイナンス関連業務を専門的に取り扱う。民法改正・個人情報保護法関連・その他一般企業法務への対応多数。同事務所退職後、外資系金融機関法務部にて、プライベートバンキング・キャピタルマーケット・ファンド・デリバティブ取引などについてリーガル面からのサポートを担当した。2020年11月より現職。一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。弁護士業務と並行して、法律に関する解説記事を各種メディアに寄稿中。