ソーシャルインパクトとは?注目されている背景や最新事例を紹介

公園のゴミ拾い活動を行う従業員

近年、「ソーシャルインパクト(Social Impact)」を重視する企業や非営利団体が増えています。そこで今回は、ソーシャルインパクトの意味や注目されている理由、最新事例を紹介するとともに、ソーシャルインパクト評価の目的や特徴、インパクト投資のトレンドをわかりやすく解説します。

ソーシャルインパクトとは

「ソーシャルインパクト」は「社会的インパクト」と表現されることもあり、内閣府の社会的インパクト評価検討ワーキング・グループによる報告書では、以下のように定義づけられています(※1)。

社会的インパクト:短期、長期の変化を含め、当該事業や活動の結果として生じた社会的、環境的な「アウトカム(効果)」

「アウトカム(Outcome)」は、組織や事業のアウトプット(事業活動を通じて作られる製品、サービスなど)がもたらす変化や便益、学び、効果を指しています。つまり、企業や非営利団体が行う活動を通して、社会や環境にもたらされた変化や効果が「ソーシャルインパクト」なのです。

ソーシャルインパクト評価(社会的インパクト評価)とは

「ソーシャルインパクト評価(社会的インパクト評価)」とは、ソーシャルインパクトを定量的・定性的に把握し、価値判断を加えることです。「価値判断を加える」という点がポイントで、「ソーシャルインパクト評価」では属性や人数、活動内容だけでなく、事業実施による社会の変化にまで踏み込んで評価する必要があります。

その目的は、大きく2つあります。1つは、外部のステークホルダーに対して説明責任を果たすことです。もう1つは、組織内で「ソーシャルインパクト」に関する取り組みと結果を共有することによる理解の促進や、事業内容の改善です。

評価方法は事業者や資金仲介者、資金提供者による内部評価の場合が多いと想定されていますが、中間支援組織やコンサルタント、研究者などの専門家による外部評価を入れることが奨励されています(※2)。

「ソーシャルインパクト」や「ソーシャルインパクト評価」が重視される背景

「ソーシャルインパクト」や「ソーシャルインパクト評価」が重視される背景には国際的な潮流と日本の現状があり、国際的な潮流としては、以下の2つが挙げられます。

  1. 2008年の金融危機をきっかけに、非営利団体や企業の資金の出し手となる助成財団や投資家が、これまで以上に成果を求めるようになったこと
  2. 複雑化する社会課題の解決への機運の高まりを受け、非営利団体と企業の協働や「ソーシャルインパクト」を重視する企業への投資が急速に拡大していること

こうした中、協働や投資の検討材料として、組織の「ソーシャルインパクト」の定量・定性的に図るツールとして「ソーシャルインパクト評価」が急速に広まっています。

一方、日本では急速な人口減少や高齢化が進む中で、社会的課題がますます多様化・複雑化しています。このことが「ソーシャルインパクト」への注目の高まりの背景にあるといえます。従来の行政中心の対応には限界が見えているため、民間の資源を流入する必要があるのです(※2)。

ソーシャルインパクト投資(社会的インパクト投資)とは

「ソーシャルインパクト投資(社会的インパクト投資)」とは、その名のとおり「ソーシャルインパクト」を重視した投資です。経済的リターンと並行して、社会的および環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資を指します(※3)。「インパクト投資(Impact Investing)」と呼ばれることもあります。

ソーシャルインパクト投資に関する世界的なネットワークであるGIIN(Global Impact Investing Network)が発表した『GIINsight: Sizing the Impact Investing Market 2022』によると、2022年の世界における「ソーシャルインパクト投資」の市場規模は1兆1640億米ドル(推計)となっています(※4)。また、一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)は、日本での市場規模は、2023年度末時点のインパクト投資残高が11兆5,414億円で、昨年比197%の伸びを記録したと発表しています(※5)。

なお、「ESG投資」もサステナビリティに関する取り組みに焦点を当てていますが、「ソーシャルインパクト投資」とは異なる点があります。ESG投資では企業のサステナビリティ関連の取り組みにフォーカスして、長期的な視野から投資対象を選定しています。一方、「ソーシャルインパクト投資」では、企業が提供する製品やサービスが社会・環境関連の課題を直接的に解決できるのかを測定・評価したうえで投資対象を選びます(※6)。

ソーシャルインパクトの取り組み事例

今後、ますます注目されるであろう「ソーシャルインパクト」に着目し、組織規模を問わず、さまざまな企業や非営利団体が取り組みを進めています。

スターバックス

スターバックスはWebサイト上に「Social Impact」というページを公開し、大切にしてきた想いとして「ビジネスと社会貢献を両立すること」を掲げています。お客様や従業員とともに人、地球、コミュニティの3つを大切にした活動を、創業初期より実践し続けていると明言しています。そのうえで、具体的な活動としてエシカルな調達、店舗での自主的な地域社会活動(コミュニティ・コネクション活動)の支援などを紹介しています(※7)。

PwC Japanグループ

コンサルティング会社のPwC Japanグループは「Social Impact」のWebページのなかで、「ビジネスを通じて社会課題の解決に取り組んでおり、ソーシャルインパクトの活動もその一環と位置づけている」と述べています。取り組み内容は、地方自治体のまちづくり支援や中高生への教育プログラムの実施など多岐にわたります(※8)。また、PwC Japanグループのメンバーが個人として関心を持つ社会課題を持ち寄り、多様な専門性を有する仲間とともに、その社会課題について学び、体験し、解決策を模索する「Collective Impact Base」という場を設立し、さまざまな社会課題を検証し、提言を発表しています(※9)。

ドキュサイン

ドキュサインは2024年4月、「Docusign.org」を立ち上げ、ソーシャルインパクトへのコミットメントを拡大することを発表しました。Docusign.orgは、2015年に開始したDocusign Imapctを含む3つの取り組みで構成されており、従業員のボランティア活動を支援したり、気候変動対策や環境保護を行う非営利団体に対して助成金の提供を行っています。また、社会課題の解決を目指す非営利団体は、Docusign for Nonprofitsを通じて、割引価格でドキュサイン製品を利用することができます。

Ashirase

ホンダ(本田技研工業)から誕生したベンチャー企業Ashiraseは、靴に装着して振動で足に知らせることで視覚障がい者の単独歩行を支えるナビゲーション「あしらせ」を開発しています(※10)。障害のある方が町中を歩きにくいという社会課題の解決を目指す、「ソーシャルインパクト」志向の強いビジネスモデルだと言えます。

社会貢献企業基金(日本財団)

中小企業の動きとしては、日本財団が取り組んでいる社会貢献企業基金があります。これは、日本財団が中小企業を対象に一口10万円からの寄付を集め、支援が必要な非営利団体の活動の支援につなげる基金です。多くの企業から寄付を集めることで、世の中を大きく動かす「ソーシャルインパクト」を起こすことを目指しています(※11)。

 

出典:

Contributeur DocuSign
筆者
Docusign
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