法務機能を高度化する「リーガルオペレーションズ」とは?その最新動向と重要性を探る
法務部門の高度化や業務効率化を進める「リーガルオペレーションズ(Legal Operations)」が、日本でも広がり始めています。本記事では、リーガルオペレーションズの定義と最新動向を解説し、その重要性を探っていきます。
法務部門の高度化や業務効率化を進める「リーガルオペレーションズ(Legal Operations)」が、日本で広がり始めています。その理由や背景には何があるのでしょうか。本記事では、リーガルオペレーションズの定義と最新動向を解説し、その重要性を探っていきます。
リーガルオペレーションズとは
リーガルオペレーションズの研究や普及を進めている米国の非営利団体「The Corporate Legal Operations Consortium(CLOC)」は、リーガルオペレーションズ(Legal Operations)を「法務サービスの提供にビジネスの管理手法やテクノロジーを適用すること」と定義づけています。具体的には、法務部門がより効果的にサービスを提供できるようにする一連の枠組みや活動、専門家を指します(※1)。
リーガルオペレーションズ誕生の背景には、「法務部門の業務効率化やコスト削減、DX(デジタルトランスフォーメーション)がなかなか進まない」という課題がありました。その解決策として2008年ごろから米国で提唱され、推進されてきました。
リーガルオペレーションズを提唱し、まとめているのは、先述のCLOCや世界最大級の企業内弁護士の団体「アソシエーション・オブ・コーポレート・カウンセル(ACC)」です。法務部門の業務・機能について、CLOCは12項目、ACCは14項目に整理し、すべきことを分かりやすく伝えています(※2)(※3)。なお、CLOCが定義する12項目については、『米国における「リーガルオペレーションズ」の定義と広がり』で詳しく解説します。
「リーガルオペレーションズ」と「リーガルテック」の関係
リーガルテック(Legal Tech)とは、「法律(Legal)」と「技術(Technology)」を融合させた造語で、法律関連の業務を効率化するAIやITサービスなどのツールのことを指します。一般的に、契約書作成サービスやAI契約審査プラットフォーム、電子契約サービス、契約ライフサイクル管理(CLM)システムなどがリーガルテックと呼ばれています。そのメリットとして、業務効率化やコスト削減、リモートワークでも利用できて利便性が高まることなどが挙げられます(※4)。これに対しリーガルオペレーションズは、テクノロジーの力を使って法務部門の業務を最適化していく作業そのものを指します。
リーガルテックは、リーガルオペレーションを実現していくうえで強力な手助けとなるツールといえるでしょう。
リーガルオペレーションズ導入のメリット
リーガルオペレーションズを導入するメリットとしては、以下のようなことが挙げられます。
より効果的なリスク管理、コンプライアンスの監視が可能になる
適切なテクノロジーを組み込める
業務の効率がアップし、企業により多くの価値を提供できる
米国では、特にアップルやグーグルといった巨大IT企業において法務部門や弁護士に対して経営陣から「もっと安く、もっと効率的に業務を遂行できないか」という要望が強く、コスト削減へのニーズが高まっていました。リーガルオペレーションズはこうしたニーズに応えたため高く評価され、現在では米国にあるグローバル企業の8割にリーガルオペレーションズ担当者が置かれています(※5)。
米国における「リーガルオペレーションズ」の定義と広がり
CLOCは、リーガルオペレーションズの核となる要素を12項目に整理し「CORE12」として伝えています。
ビジネス・インテリジェンス(Business Intelligence)
財務管理(Financial Management)
企業とベンダーの管理(Firm & Vendor Management)
情報ガバナンス(Information Governance)
知財管理(Knowledge Management)
組織の最適化と健康(Organization Optimization & Health)
実施の段取り(Practice Operations)
プロジェクト/プログラム管理(Project/Program Management)
サービス提供モデル(Service Delivery Models)
戦略的計画(Strategic Planning)
テクノロジー(Technology)
トレーニング&開発(Training & Development)
実際のリーガルオペレーションズでは、上記それぞれの要素について、法務以外のビジネス部門で用いられているマーケティングやデータ分析、プロジェクト管理の手法やテクノロジーを取り入れ、効率化を図っていきます(※1)。
日本でのリーガルオペレーションズの定義と現状
米国の動きを受け、日本でも法務関係者を中心に、リーガルオペレーションズへの関心が少しずつ高まってきました。2018年には経済産業省が、法務機能を活用した新事業の創出や企業価値の向上を目的に「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会」を発足させました。定期的に議論を重ねて2018年と2019年に報告書を発表し、必要な方策や人材育成の方法にも言及しています。こうした動きも日本でのリーガルオペレーションズ推進の後押しになりました(※5)(※6)。
しかし、リーガルオペレーションズを導入しようという機運が高まったものの、日本には米国とは異なる企業風土、法務の状況があり、全く同じ方法での導入は難しいという課題がありました。
そこで、2021年に企業などの有志が集まって「日本版リーガルオペレーションズ研究会」を発足し、2022年に「CORE8」というリーガルオペレーションズの核となる8項目を発表しました。現在は「CORE8」のもとでリーガルオペレーションズが推進されています(※7)。その8項目の内容は以下の通りです。
戦略
予算
マネジメント
人材
業務フロー
ナレッジマネジメント
外部リソースの活用
テクノロジーの活用
具体的な内容としては、例えば「予算」では適切な予算策定・運用の分析、「マネジメント」では法務組織の最適化、「人材」では人材育成や最適化、「業務フロー」では標準化と定期的な見直し、「テクノロジー」では導入したテクノロジーを使いこなす段階を目指し、すべきことが提案されています。
日本の法務部門は現在、特に以下のような課題に直面しています(※8)。
国際的な案件、初めて接するビジネスモデルなど、法務部門で扱う案件が複雑化している。
法務人材の流動性が上昇し、個人のスキル頼りではなくチームで体系的なシステムを作る必要性が出てきた。
働き方の多様化で、業務の効率化が迫られている。特に在宅勤務者やハイブリッドワークを行う社員の増加で、オペレーションの改善が必要になった。
これらの課題に対し、リーガルオペレーションズが解決策になることが期待されています。
リーガルオペレーションズによって法務部はどう変わるのか
CLOCは、米国で過去10年ほどの間、リーガルオペレーションズに求められることが変化してきた、とWebサイトで述べています。以前はリスク管理と外部弁護士費用の削減に重点が置かれていましたが、現在はコストを削減しながら仕組みを自動化し、効率向上を図ることや、データの透明性を上げることに重点が置かれています(※1)。日本でも、企業を取り巻く環境の変化、リーガルオペレーションズという枠組みや専門家の成熟度により、求められることは変わっていくことでしょう。
リーガルオペレーションズが法務部で働く人々の仕事の満足度を高め、また、法務部における業務の効率化、コスト削減、企業価値の向上に貢献していくー。そんな好循環が期待されています。
出典: