2024年度から増税?森林環境税が課税される背景、対象者や使い道を解説
2024年度から森林環境税の課税が開始されます。誰を対象に、いくら徴収されるのでしょうか。本記事では、森林環境税が創設された背景や仕組み、森林保全への効果および問題点についてわかりやすく解説します。
2024年度から1人1,000円、住民税に上乗せされる形で「森林環境税」が課税されます。対象者は約6,200万人と言われていますが、この徴収の背景にはどんな事情があるのでしょうか?また、徴収後は都道府県、市町村に配分されますが、どのような形で使われるのでしょうか?
本記事では、森林環境税が創設された理由や仕組み、森林保全への効果および課題についてわかりやすく解説します。
なぜ「森林環境税」が課税されるのか?
森林環境税が創設された背景には、国内での森林整備の必要性の高まりと、2015年にフランスで開かれた国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択された「パリ協定」の枠組みがあります。
日本の森林面積は約2,500万ヘクタールで、日本の国土の67%、3分の2を森林が占めています(※1)。森林は水源の維持や生物多様性を育む場として、私たちの生活を支えています。また、洪水や土砂崩れといった災害を防ぐ機能も果たします。しかし最近では、林業の担い手不足、所有者や境界が分からない森林の増加などにより荒れた森林が増え、整備が追いついていないという現状があります。森林が荒れてしまうと、十分な効果を発揮できなくなります。そのため間伐などの森林整備を、これまで以上に積極的に実施する必要性が出てきました(※2)。
これに加え、日本が気候変動対策として「パリ協定」の枠組みで決められた温室効果ガスの排出削減目標を達成するには、CO2を吸収し地球温暖化防止につなげることのできる森林の維持や整備が不可欠です。
ニーズが高まっている森林整備を効果的に進めるためには安定的な財源が必要です。そこで2019年に「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」が成立し、「森林環境税」と「森林環境譲与税」が創設されました(※3)。**「森林環境税」は日本国内に住所がある納税義務者から徴収する税金で、それを財源として、森林整備のために全国各地の自治体が受け取るのが「森林環境譲与税」**です。
森林環境税はいつから始まる?増税額、対象者、非課税の基準とは?
森林環境税は、2024年度分の住民税(住んでいる自治体に対して支払う税金)に上乗せされるかたちで徴収が始まります。対象者は国内に住所がある個人で、対象となる納税義務者は約6,200万人です。金額は一律で、1人あたり年額1,000円となっています。なお、森林環境税が非課税になる要件は住民税で適用される要件と同じで、年収額や生活状況によっては非課税になります。詳しくはお住まいの自治体でご確認ください。
一方、市町村が活用する森林環境譲与税は、「森林環境税及び森林環境譲与税に関する法律」が成立した2019年から、先行して地方自治体に配分されています。現時点では、森林環境税の徴収が始まっていないので、資金源は国庫となっています。
森林環境税(森林環境譲与税)の使い道
総務省によると、森林環境税を財源とする森林環境譲与税は、都道府県では「森林整備を実施する市町村の支援等に関する費用」に、市町村では「森林整備及びその促進に関する費用」に充てることとされています。都道府県・市町村は、インターネットの利用などにより使途を公表しなければなりません(※3)。
では、具体的にはどんな取り組みが行われているのでしょうか?
都道府県による市町村の支援として、2021年度には市町村向けの総合的なサポート組織の設置、アドバイザーの配置・派遣、市町村職員向けの研修の実施、林業技術者や木造建築物に携わる建築士の育成といった取り組みが実施されました。近隣の市町村の連携による事業実施体制の構築支援や、都市部と山村部の市町村のニーズをつなぐ役目を果たす都道府県もあります(※4)。
市町村は森林整備及びその促進の担い手として、より実務的な役割を担っています。2021年度には主に3つの分野で、以下の取り組みを実施しました(※5)。
森林整備関連
間伐・再造林などの森林整備
里山林・竹林の整備
鳥獣・病害虫対策
境界等の森林情報の整備
人材育成・確保関係
林業就業者・事業体への支援
研修の実施
木材利用・普及啓発関係
施設の木造・木質化
木製品の制作や配布
バイオマス利用
啓発イベントの開催
森林整備に関しては、森林環境譲与税の譲与と同時に開始された「森林経営管理制度」を活用し、進められている事例が多くなっています。この制度は経営管理されていない森林について市町村が仲介役となり、森林所有者と管理の担い手をつなぐ仕組みです。経営管理に適した森林は林業経営者が担い手となり、適さない森林は市町村が自ら管理します。こうした仕組みにより、荒れていた森林の整備を漏れなく進めようとしています(※6)。
森林環境税をめぐる課題
全国での森林整備や温室効果ガス排出量の削減目標の達成に貢献する森林環境税と森林環境譲与税ですが、課題もあるといわれています。
1つ目は、森林環境税の課税方法です。所得額に関係なく一律で1人年額1,000円が徴収されるため、所得の差による負担割合への配慮がないという指摘があります。
2つ目は、森林環境譲与税の配分方法に関わる問題です。森林環境譲与税の各自治体への配分は、私有林や人工林の面積に応じた配分が50%、人口に応じた配分が30%、林業従事者数に応じた配分が20%となっています。人口に応じた配分比率が高めに設定されているので、森林面積が少なく人口が多い都市部の自治体に、多額の森林環境譲与税が配られる可能性があります。例えば、私有林や人工林の面積がゼロである東京都渋谷区にも森林環境譲与税が配分されています。しかし、現時点では使い道を見いだせていないため、2019年から2021年まで全額を「渋谷区都市整備基金」という基金として積み立てています(※7)。
3つ目は、森林環境譲与税を活用できていない自治体の多さです。国のまとめによると、制度が始まった2019年度からの3年間で、全国の市町村に配分された森林環境譲与税は約840億円にのぼります。その47%にあたる395億円がすぐには活用されず、基金として積み立てられました(※8)。理由としては、先に挙げた渋谷区のような「都市部にあるため活用法を見いだせない」という理由のほか、小規模な市町村では職員がさまざまな業務に追われることが多く、手が回らないといった事情もあるようです。
森林環境税の今後は?
森林環境税の課税方法、森林環境譲与税の配分方法については見直しを求める声が高まっています。特に配分方法については、今後の活用状況によっては見直しの議論が本格化する可能性もあります。
市町村による森林環境譲与税の使い道については、人口の多さにより配分額が全国一となっている横浜市の取り組みがヒントになるかもしれません。国産木材の利用促進と普及啓発を図ることが都市部の役割であるとし、国産木材を使った市立小中学校の建替や改修、増築の際に財源として森林環境譲与税を活用すると発表しています(※9)。日本各地で林業の事業者が多くの木材を産出しても、買い手がいなければ経済的に立ち行かなくなります。国産木材の購入により林業を支えるのは、都市部ができる有効な支援策の1つとなるでしょう。
気候変動対策や日本の森林をめぐる問題解決を目指し、2024年度から始まる森林環境税。多額の税金を無駄にされないために、私たち一人ひとりが関心を持ち、しっかりと使途を見守っていく必要があります。
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