企業戦略に欠かせない「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」とは?
経済産業省の呼びかけをきっかけに、2020年頃から普及し始めた「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」。本記事では、SXの定義や普及の背景、メリット、取り組み事例を紹介していきます。
欧米では2010年ごろから、日本では2020年に経済産業省が呼びかけを行ったことを契機に「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」が普及し始めました。
本記事では、SXの定義や普及の背景から、企業がSXを推進するメリット、最新の事例まで、詳しく紹介していきます。
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは
SXとは、一言で表すと、企業が「企業」と「社会」の両方のサステナビリティ(持続可能性)を重視した経営のあり方に転換することです。英語圏では2010年ごろから「Sustainability Transformation(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」もしくは「Sustainable Transformation(サステナブル・トランスフォーメーション)」という呼び名で広まりました(※1)。
日本では2020年、経済産業省の呼びかけをきっかけにSXが普及し始めました。経済産業省は、SXに関する研究会やワーキング・グループを立ち上げて検討を深め、2022年8月にはSX実践の重要性と具体策を整理した「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」を発表しています。
このレポートの中では、SXの実現には以下の3点が重要だと言及されています。日本企業は、これらを参考にしながらSXを推進しています(※2)。
社会のサステナビリティを踏まえた目指す姿の明確化
目指す姿に基づく長期価値創造を実現するための戦略の構築
長期価値創造を実効的に推進するためのKPI・ガバナンスと、実質的な対話を通じた更なる磨き上げ
引用:『サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間とりまとめ』P11(経済産業省))
SXが注目を浴びている理由と背景
SXが注目を浴びている背景には、外部環境の不確実性が高まってきたという点が挙げられます。具体的には、気候変動やパンデミック、米中対立構造の深化が代表的な事例です。こうした先行きが不透明な環境のなか、さまざまなリスクに対処できるサステナブルな取り組みが重視されるようになったのです。さらに、投資家や消費者などのステークホルダーからのサステナブルな経営への期待が高まっていることも要因になっています(※3)。
なお、SXと似た言葉として「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」や「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」があります。DXはデジタル技術を用いて社会やビジネスを変革すること、GXはクリーンなエネルギーを活用していくための変革やその実現に向けた取り組みのことです。GX、DX、SXはともに、社会の仕組みや流れの変革を目指しているという点で共通しています。
SX推進のために必要な取り組み
経済産業省が掲げている『サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間とりまとめ』では、SX推進のために、企業は以下の3つの取り組みが必要であると提唱しています。
1つ目は、戦略的な事業の組み換えやイノベーションです。これは稼ぐ力を持続させ、企業のサステナビリティを高めていくことにつながります。2つ目は、将来的な社会の姿を思い描きながら「リスク」と「機会」を把握し、すべきことを経営に反映させることです。企業はサステナブルな社会を作る一員として貢献しながら、自社の経営も持続させることができます。3つ目は、将来に対してのシナリオ変更があり得ることを念頭に置いたうえで、これまで以上に企業と投資家が対話を重ねていくことです。これにより企業は中長期的な価値創造ストーリーを磨き上げ、企業経営のレジリエンスを高め、より持続可能な経営を実現できます(※3)。
なお、3つの取り組みを推し進めるには、2020年5月に経済産業省・厚生労働省・文部科学省が共同で発表した「ダイナミック・ケイパビリティ」もカギになります。これは2020年5月に経済産業省・厚生労働省・文部科学省が共同で発表した「ものづくり白書2020」の中で取り上げられた概念で、環境に適応して、組織を柔軟に変化させる力のことを言います。ダイナミック・ケイパビリティが高いと、危機的な状況に直面した時も適切なタイミングで組織を変化させ、組織を持続させることができるため、製造業界を中心に注目を集めています。
SXを進めることで、企業は中長期にわたり稼ぎ続ける力を向上させることができます。また、サステナブルな取り組みを支持するESG投資家・株主からの評価も向上します。さらに、エシカル消費への関心が高い消費者からの評価も高まり、企業のイメージアップが期待できるでしょう(※4)。
事例にみるSXの取り組み
SXへの取り組みは日本でも進んでいますが、海外でも広がりを見せています。代表的の取り組みとして、いくつかのケースを紹介していきます。
▼富士通株式会社
富士通株式会社は2020年にパーパスを刷新し、「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」を掲げています。また、その施策の1つとして、社会活動ではなく事業としてお客様のビジネス成長と社会課題の解決に挑むソリューション「Fujitsu Uvance」を立ち上げ、お客様とともにSXの実現に取り組むことを明言しています(※5)。
▼本田技研工業株式会社
本田技研工業株式会社は、創業期より「環境保全」と「安全の達成」を使命と位置付け、サステナビリティを重視した経営を進めてきました。加えて2021年には「2050年への新目標」として「2050年にHondaの関わるすべての製品と企業活動を通じて、カーボンニュートラルをめざすこと」と「交通事故死者ゼロ」というさらに踏み込んだ目標を掲げ、具体的な施策を実践しています(※6)。
▼ユニリーバ
「サステナビリティを暮らしの“あたりまえ”に(Make Sustainable Living Commonplace)」をパーパスとして掲げているユニリーバは、2010年に「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」を導入しました(※7)。これは、環境負荷を減らし、社会に貢献しながらビジネスを成長させることを目指す成長戦略です。「10億人以上のすこやかな暮らしに貢献する」「製品ライフサイクルからの環境負荷を1/2にする」「数百万人の経済発展を支援する」という目標のもと、大きな成果を上げています(※8)。
▼オーステッド
デンマークのオーステッドは国営の石油・天然ガス会社をルーツに持つ企業です。1973年に起きたデンマークの石油危機を契機に変革を進めていきました。2000年代に入ってからは風力発電事業に進出、2008年に石油・天然ガス事業を終了し、再生可能エネルギー企業に移行しました。現在は洋上風力、陸上風力、再生可能水素、太陽光発電、バイオエネルギーなど多岐にわたる再生可能エネルギーを扱っています。2025年までには発電過程および運営において、カーボンニュートラルになる予定です(※9)(※10)。
SXで企業・社会はどう変わっていくのか?
企業のSXによって経営のあり方を転換することは、地球や社会のサステナビリティにつながります。同時に、企業自身が中長期にわたり生き抜いていく企業経営のサステナビリティにも寄与します。企業にとってSXは、変化が大きい社会を生き抜くための道しるべになっていくことでしょう。
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