企業の寄付制度「マッチングギフト」とは?メリット・デメリットや国内外の企業の事例を紹介
近年、日本でも広がりをみせている「マッチングギフト」ですが、どのような制度で企業や従業員にとってどんなメリットがあるのでしょうか。本記事では、マッチングギフトの仕組みや特徴、国内外の事例をわかりやすく解説します。
企業や団体が従業員に寄付を募り、従業員の寄付に対して同額または一定割合の金額を上乗せして寄付する「マッチングギフト」が、日本でも広がっています。本記事では、マッチングギフトの定義やメリット・デメリット、日本と海外における事例を紹介していきます。
「マッチングギフト」とは
「マッチングギフト」とは、企業や団体が、従業員の寄付に対して同額または一定割合の金額を上乗せして寄付する仕組みです。多くの場合、従業員が寄付した金額と等しい額を企業が追加します。例えば、従業員が5,000円寄付する場合は、企業が5,000円追加し、合計10,000円が寄付されます。また、従業員が行ったボランティア活動の時間や内容に応じて、企業が寄付を行う場合もあります。「マッチングギフト」は英語でMatching Gift、Donation Match、Corporate Matching Giftなどと呼ばれていますが、いずれも同じ意味になります。日本語では「マッチングギフト」の他に「マッチング寄付」と表現されることもあります。
マッチングギフトの制度は1954年に始まりました。ゼネラル・エレクトリック(General Electric)社の運営しているGE財団が、従業員の慈善活動や寄付を支援するために「企業マッチングギフトプログラム」という概念を創設したことが起源です。この取り組みが、他の企業にも広がりをみせ、世界中で普及していきました1。
寄付先の選定については、従業員が寄付先を自由に選べる「直接型」、企業が選定した団体の中から選ぶ「準直接型」、給与天引き等で寄付金を積立て、企業が選んだ団体に寄付を行う「間接型」の3タイプがあります2。
なお、日本では「一般」から寄付を募る場合に、その寄付額の同額を企業が上乗せして寄付する形式も「マッチングギフト」と呼ぶことがあります。しかし、英語ではそのような意味で使われることはほとんどありません。そのため、本記事では企業が従業員向けに行う場合のみを「マッチングギフト」と定義し、解説します。
マッチングギフトのメリット・デメリット
マッチングギフトは、支援先の非営利団体や企業、そこで働く従業員にとってさまざまなメリットがあります3。
マッチングギフトのメリット
【支援先となる非営利団体のメリット】
寄付額が増える
新規の寄付が増える
企業との関係を構築、強化できる
【企業側にとってのメリット】
従業員の社会問題への意識が向上する
寄付を通じて従業員同士が交流し、コミュニケーションが増える
金銭的な支援を行うことで、社会に大きく貢献することができる。その結果、企業イメージの向上にもつながる
寄付による税金控除を受けられる(ただし、国の制度により状況は異なる)
【従業員にとってのメリット】
支援したい団体を、より手厚くサポートできる
社会問題や非営利団体についての理解が深まる
勤務先が支援している団体への寄付なので、安心感・信頼感をもって寄付できる
企業の仕組みを利用することで、気軽に寄付できる
マッチングギフトのデメリット
一方で、以下のようなデメリットもあるので、知っておくとよいでしょう。
企業が寄付することにより、一部の寄付者が自己負担額を減らす可能性がある4
従業員が本当に支援したい団体を選べないことがある
従業員の自己負担額の減少に関しては、企業や寄付先が寄付の使い道やその必要性を丁寧に伝えることで、防げる可能性があります。寄付先の選定については、従業員が寄付したい団体を選べる「直接型」を採用したり、従業員から寄付先の提案を募る仕組みを導入したりすることで解決できるでしょう。
海外企業のマッチングギフトの事例
ここでは、IT業界を中心とした海外の事例を紹介します5。マッチングギフトには、60年以上の歴史があるため、海外では金額も取り組みの規模も大きくなっています。
ゼネラル・エレクトリック
先述したとおり、マッチングギフトはゼネラル・エレクトリックが60年以上前に始めた制度です。このプログラムの開始以来、同社は10億ドル以上を従業員のマッチングギフトとして寄付してきました。現在、同社の従業員は年間5,000ドルまで1:1の比率でマッチングギフトに申請できます。
マイクロソフト
マイクロソフトは、従業員のマッチングギフトの参加率が65%以上と非常に高く、従業員の寄付と企業の上乗せ分を合わせて10億ドル以上が非営利団体に寄付されています。
HP
HPはマッチングギフトによる寄付の増額に加え、従業員のボランティア活動を支援する仕組みを取り入れています。具体的には、四半期ごとに一定時間以上のボランティア活動を行った従業員に助成金が支給され、その助成金を自身が選んだ慈善団体に寄付できます。
ドキュサイン
ドキュサインでは、ソーシャルインパクトに対するアプローチである「Docusign.org」の活動の一環として、従業員が対象となる団体へ寄付する際、同額を上乗せしています。また、従業員が参加したボランティア活動の時間に応じて、支援団体に寄付を行っています。2017年以降、2,100万ドルを超える金額を寄付し、10万時間以上のボランティア活動を通じて地域社会に貢献し、8,000以上の団体を支援しています。
日本企業のマッチングギフトの事例
日本でも、大企業を中心にマッチングギフトを導入する企業が増えています。
積水ハウス株式会社
積水ハウス株式会社では、従業員と会社の共同寄付制度「積水ハウス マッチングプログラム」を実施しており、これまでに約4.9億円を延べ645団体へ支援しています6。
キユーピー株式会社
キユーピー株式会社は、2008年度からマッチングギフト制度「QPeace (キユーピース)」を導入しています。寄付先の団体は、従業員の推薦を受け、有志による選定委員会で決定されています。2023年度には子ども、環境、食を活動のテーマとする10団体へ寄付を行いました7。
株式会社オリエンタルランド
ディズニーランドをはじめとするテーマパークの経営・運営を行っている株式会社オリエンタルランドは、「こどもスマイル基金」という制度を立ち上げています。この制度では、希望する従業員が毎月の給与と賞与の端数(99円以下の金額)および100円を1口とした任意の口数を募金として積み立てます。積み立てられた募金は年2回、従業員が候補から選んだ団体に寄付され、その際、株式会社オリエンタルランドも同額を上乗せしています8。
今後普及が進むマッチングギフト
従業員がより気軽に寄付を行うことができるマッチングギフトは、60年以上前に制度化されて以来、着実に広がりを見せています。社会・環境問題が複雑化し、多くの人々が「自分ができること」を模索するなか、勤務先の企業と共に信頼のおける寄付先を支援できるこの仕組みは、今後ますます普及が進んでいくでしょう。
参照: 1 GE Foundation『GE Foundation’s Matching Gifts Program Guidelines』 2 非営利用語辞典「マッチング・ギフト」 3 Double the Donation「Nonprofit Basics: Matching Gifts & How They Double Funds」 4 東洋経済オンライン「マッチング寄付」は逆効果を生みかねない」 5 Double the Donation「Companies with Innovative and Unique Matching Gift Programs」 6 積水ハウス「従業員と会社の共同寄付制度 積水ハウス マッチングプログラム」 7 キユーピー株式会社「社会貢献活動」 8 株式会社オリエンタルランド「社会貢献活動の取り組み」