電子契約法をわかりやすく解説!ECサイトなどでの操作ミスの救済要件を明確化
消費者による誤発注については、「電子契約法(電子消費者契約法)」によって救済ルールが定められています。本記事では、電子契約法について、その目的や操作ミスの救済要件、さらに事業者が講ずべき措置などをわかりやすく解説します。
ECサイトなどを通じて消費者が事業者から商品等を購入する際には、しばしば操作ミスによって発注を誤るケースがあります。消費者による誤発注については、「電子契約法」によって救済ルールが定められています。事業者側は、電子契約法によって契約の効果が覆されないように、確認措置などを講ずることが大切です。本記事では、電子契約法について、その目的や操作ミスの救済要件、事業者が講ずべき措置などを解説します。
電子契約法とは
電子契約法(電子消費者契約に関する民法の特例に関する法律)とは、電磁的方法により締結される消費者契約について、民法の錯誤の規定に関する特例を定めた法律です。「電子消費者契約法」と呼ばれることもあります。
電子契約法の目的
電子契約法の目的は、消費者による誤発注が生じやすいインターネット通販など画面を介した取引について、消費者の保護を手厚くすることにあります。このような事業者・消費者間の取引において、事業者側は事前に十分な検討を加えた定型的な契約条件(=ひな形、利用規約など)を消費者に提示するのが一般的です。
これに対して、消費者側は通常、画面上で契約条件(名前・住所・数値など)を入力するのみで完結してしまうことが多いのが実情です。そのため、対面や書面で契約を締結する場合と比較して、消費者側には操作ミスによる「誤った意思表示(=錯誤)」が生じるリスクが高いと考えられます。
電子契約法では、こうした事情を踏まえて、当事者間の衡平の見地から、消費者が操作ミスにより誤った意思表示をしてしまった場合につき、錯誤による取り消しが認められやすくなる特例を定めています。
民法改正に伴う電子契約法4条の削除
電子契約法は制定当時、「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」という名称でした。かつての電子契約法4条では、その旧名称に表れている通り、契約に関する承諾の通知が電子的に行われる場合について、民法の特例が定められていました。
同特例は、旧民法で定められていた隔地者間の契約の「発信主義」を、「到達主義」に変更するものです。
発信主義:承諾の意思表示を発した時点で契約が成立する
到達主義:承諾の意思表示が相手方に到達した時点で契約が成立する
しかし、2020年4月1日に改正民法が施行され、隔地者間の契約について到達主義が採用されたことに伴い、電子契約法4条の規定は削除されました。
電子契約法に基づく錯誤の特例
電子契約法では「電子消費者契約」について、民法で規定されている消費者による錯誤取り消しの主張要件を緩和しています。
特例の対象となる「電子消費者契約」とは
「電子消費者契約」とは、以下の3つの要件を満たす契約をいいます(電子契約法2条)。
消費者と事業者の間で締結されること
消費者:個人(事業として、または事業のために契約の当事者となるものを除く)
事業者:法人その他の団体、および事業としてまたは事業のために契約の当事者となる個人
電磁的方法により、電子計算機の映像面を介して締結されること
電磁的方法:電子情報処理組織を使用する方法、その他の情報通信の技術を利用する方法
事業者またはその委託を受けた者が当該映像面に表示する手続きに従って、消費者がその使用する電子計算機を用いて送信することにより、契約締結の申込みまたは承諾の意思表示を行うこと
電子消費者契約として典型的に想定されるのは、ECサイトを通じたインターネット通販や、街頭の電子端末(キオスク端末など)を用いて行うチケットの購入などです。また、電子署名サービスを通じて締結される契約についても、事業者・消費者間で締結されるものは電子消費者契約に該当することがあります。
民法の原則|錯誤取り消しの要件
民法95条では、当事者の勘違いにより、真意とは異なる契約締結の意思表示をしてしまった場合には、一定の要件の下で意思表示の錯誤取り消しを認めています。
具体的には、以下の要件を満たす場合に錯誤取り消しが認められます。
要件①:意思表示が以下のいずれかに該当する錯誤に基づくこと
意思表示に対応する意思を欠く錯誤(=表示の錯誤)
表意者が法律行為の基礎とした事情について、表意者の認識が真実に反する錯誤(=動機の錯誤)
要件②:その錯誤が、法律行為の目的および取引上の社会通念に照らして重要なものであること
要件③:動機の錯誤の場合、表意者が法律行為の基礎とした事情が相手方に対して表示されていたこと
要件④:錯誤について、表意者に重大な過失がないこと(ただし以下のいずれかに該当する場合は、重大な過失があっても錯誤無効を主張可能です。)
相手方が表意者に錯誤があることを知り、または重大な過失によって知らなかったとき
相手方が表意者に同一の錯誤に陥っていたとき
電子契約法の特例|操作ミスは重過失があっても救済可能に
電子消費者契約につき、消費者が操作ミスによって誤発注をするようなケースは「表示の錯誤」にあたります(要件①(a))。
しかし、消費者が操作ミスによる錯誤取り消しを主張しても、事業者が消費者に重大な過失があったこと(=要件④を満たさないこと)を理由に反論する場合、紛争が長期化することになりかねません。そこで電子契約法3条では、消費者による電子消費者契約の申込み・承諾の意思表示のうち、要件①(a)と要件②を満たすものについては、要件④を以下のとおり緩和しています。
<要件④を緩和する条件:以下のいずれかに該当すること>
送信時に契約締結の意思がなかったとき
送信時に実際の意思表示とは異なる内容の意思表示を行う意思があったとき
【原則】要件④を適用しない(消費者に重大な過失があっても、錯誤取り消しを認める)
【例外】以下のいずれかに該当する場合には、要件④を適用する(消費者に重大な過失があれば、原則として錯誤取り消しを認めない)
事業者(その委託を受けた者を含む)が、消費者による契約締結の意思表示に際して、電磁的方法によりその映像面を介して、契約締結の意思の有無について確認を求める措置を講じた場合
消費者から事業者に対して、当該措置を講ずる必要がない旨の意思の表明があった場合
上記の特例により、電子消費者契約に関する消費者の操作ミスによる誤発注等については、錯誤に基づく取り消しが認められやすくなっています。
事業者必見!電子契約法について事業者が講ずべき措置
事業者としては、電子消費者契約が錯誤により取り消される事態を防ぐ必要があります。そのためには、消費者に対して契約締結の意思を念入りに確認することが大切です。画面上で確認措置を講じれば、電子契約法の特例が適用されず、消費者に重過失がある場合は錯誤取り消しが原則認められなくなります。
契約締結意思の確認措置としては、以下の例が挙げられます。
送信ボタンが存在する同じ画面上に意思表示の内容を明示し、そのボタンをクリックすることで意思表示となることを、消費者が明らかに確認できる画面を設置する
最終的な意思表示となる送信ボタンを押す前に、申込みの内容を表示し、そこで訂正する機会を与える画面を設置する
電子契約サービスを通じて、締結前の最終版PDFを送信し、電子署名による締結を求める など
電子契約に関するその他の法律
電子契約法以外にも、電子契約に関する法律があります。以下に紹介する法律は、事業者・消費者間だけでなく、幅広い取引に適用されます。
民法:契約全般に適用される一般法です。
電子署名法(電子署名及び認証業務に関する法律):電子署名の要件や効力などを定めています。
電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律):電子契約ファイルの保存方法などを定めています。
電子契約を締結する事業者は、それぞれの法律のルールについて精通し、正しく運用することが求められます。
本記事で取り上げた「電子契約法」は、特にインターネット通販を行う事業者が注意すべき法律です。そのほかにも、オンライン上で消費者と電子契約を締結する事業者などは、電子契約法の規定をよく留意して運用していくことをお勧めします。
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ゆら総合法律事務所・代表弁護士(埼玉弁護士会所属)。1990年11月1日生、東京大学法学部卒業・同法科大学院修了。弁護士登録後、西村あさひ法律事務所入所。不動産ファイナンス(流動化・REITなど)・証券化取引・金融規制等のファイナンス関連業務を専門的に取り扱う。民法改正・個人情報保護法関連・その他一般企業法務への対応多数。同事務所退職後、外資系金融機関法務部にて、プライベートバンキング・キャピタルマーケット・ファンド・デリバティブ取引などについてリーガル面からのサポートを担当した。2020年11月より現職。一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。弁護士業務と並行して、法律に関する解説記事を各種メディアに寄稿中。