AIが生産性向上に役立つ5つの領域とは
AIが将来もたらすインパクトは未知数です。AIは便利な競争ツールになるかもしれませんし、私たちの生活をがらっと変えてしまう可能性を持つイノベーションになるかもしれません。
Slack社が2023年に実施した調査「State of Work(仕事の現況)」では、業務の自動化ツールを利用している従業員は上司の期待を上回る成果を出す可能性が71%高く、半数は週に3.5時間を節約できることが明らかになりました。例えば、チームメンバーが5名の場合、合計で週に17.5時間、つまり2営業日以上の時間を節約できることになります。業務の自動化によって浮く時間は、組織全体ではいったい何日分になるのでしょうか。
NVIDIAの共同創業者兼CEOであるJensen Huang(ジェンスン・フアン)氏は、いまAIを導入する企業は成功のための足場を築けると述べています。同氏は、「機敏にAIを活用する企業は成長していくが、そうでない企業は滅びるだろう」と考えています。この“オール・オア・ナッシング(全か無か)”の考え方は、最終的な結果としては正しいかもしれませんが、ほとんどの企業は小さいことからでも始めることができます。しかし、多くの企業がAIの可能性を確信しているものの、何から手をつければいいのかわからないという企業もあるでしょう。
なぜ一部のビジネスリーダーはAI活用に前向きではないのか
マイクロソフト社の「Work Trend Index Annual Report in 2023(ワークトレンド指数年次報告書)」は、生成AIとGPTに関するLinkedInの投稿がわずか1年の間に33倍に増加しているとし、ビジネスにおけるAIの関心の高さを示しています。ビジネスリーダーたちはAIの可能性を認識しているようですが、中にはAIに手を出すのをためらっている人もいるでしょう。コストと利益を比較するにとどまっていたり、AIを導入することが正しいと判断しているものの、いつ、どこから手をつければいいのかわからないという経営者もいるようです。
もし自社でAIを導入したいと考えているのであれば、説得力のある正当化理由を提示するのが得策です。その際に役立つのが、最も一般的な懸念事項は何かを理解することです。例えば次のような点です。
**会社に技術的負債がある:**非効率的なコード、明文化されていない「その場しのぎ」の解決策、膨らみすぎた技術スタックが、企業の技術的負債の86%を占めています。皮肉なことに、AIは最終的にこれらの課題のいくつかを改善する可能性がありますが、IT部門はすでに手一杯で、新たなプロジェクトを始める余裕はないかもしれません。
**AIツールが山ほどありすぎて選べない:**圧倒的な数のAI支援ツール、プラットフォーム、ボットがある中で、何から手をつければいいかわからない場合はどうすればいいのでしょうか。まずは、最大のビジネスニーズを明確にすることから始めましょう。対処すべきビジネスニーズがわかれば、ツールを選択しやすくなります。
**従業員がどのようにAIを活用するべきかわからない:**AIには学習曲線がつきものです。現在、リーダーの82%が、AIを導入した職場で活躍するためには従業員に新しいスキルが必要だと述べています。AIがビジネスの幅広い側面に広がるにつれ、従業員への研修が必要になるでしょう。
**リーダーがAIを優先事項にする必要性を理解していない:**最高幹部レベルの経営陣やそれ以外のリーダーの支持がなければ、組織がAIを広く採用することは期待できません。リーダーたちがAI導入に賛同してくれるようにするには、小規模なパイロット・プログラムを提案しましょう。そのプログラムで有望性が認められれば、(ポジティブな)数字や右肩上がりのグラフを見て、AIを優先する価値を見出す可能性があります。
こうしたAIの正当化事由を念頭に置いて、生産性を高めるためにAIを導入する5つの方法を見てみましょう。
AIが役立つ5つの領域
AIには投資する価値があること、そしてAIが自社の状況に適したツールであることを確認するには、次のような点について自問自答する必要があります。
いま対処しようとしている火急の課題は何か?
より質の高いデータが業績に最も大きな影響を与える領域はどこか?
より良質なデータに即座にアクセスできるようになることで、何を改善でき、何を加速できるのか?
手作業で行っているプロセスのうち、最も時間を費やしているのは何か?
どのようにスモール・スタートすれば良いかを理解するために、以下に「AIが役立つ5つの領域」を紹介します。
1. 契約:契約の隠れた価値を発見
契約はビジネスの根幹です。しかし、契約の締結や管理は、しばしば悩みの種やリスクの原因になることがあります。ドキュサインが実施した調査の対象企業のほぼ半数が、成約した契約書がどこに保管されているかわからず、見つけられなかったことがあると回答しています。そのため、契約書の中で問題のある文言を見つけたり、重要な期日を追跡しにくくなっているのが実情です。幸いなことに、契約ポートフォリオの分析は、特にAIの支援により、これまで以上に容易になっています。
ドキュサインは数年前から、組織が自然言語処理やルールベースのロジックを含むAIベースのテクノロジーを使用して契約書を管理・分析できるよう支援しています。こうしたテクノロジーは、Docusign eSignature、Docusign CLM、Docusign Identifyの各サービスに搭載されており、Agreement Summarization(契約書の要約)機能もその一つです。AIを活用した契約分析により、以下に挙げるようなメリットが得られ、契約プロセスにおける生産性が向上します。
**契約書レビューのスピードアップ:**契約書の重要な箇所を明示することで、レビューに要する時間を短縮し、十分な情報に基づいた意思決定を迅速に行うことができます。
**契約の可視性の向上:**テキストベースの契約書を構造化して検索可能なデータに変換することで、契約ライフサイクル全体を通して、管理が容易になります。
**機会とリスクの発見:**目に見えないリスクや隠れた機会を発見するスマートな契約分析により、ビジネス上の意思決定を促進します。
ドキュサインの製品・テクノロジー・オペレーション担当プレジデントのInhi Cho Suh(インヒー・チョースー)は、「(ドキュサインは)契約プロセスにおける生産性を向上させるために、AIがどのように貢献できるのかを積極的に検討しています。そのため、AIに根ざした機能を構築し、お客様の働き方変革を支援しています」と述べています。
2. ビジネスインテリジェンス(BI):AIでビジネスインテリジェンスを獲得
事業を通じて大量のデータが生み出されますが、整理されていない大規模なデータセットは扱いにくく、そこから手作業で何らかのインサイトを得ることは困難、または不可能に近いと言えます。通常、すべてのデータをふるいにかけ、価値あるインサイトを見つける作業は、従業員が担っています。AIはこのプロセスを極めて簡単にします。
AIは、大規模なデータセットからビジネスインテリジェンス(BI)を抽出する際、プロセスの多くの部分で力を発揮します。AIは未整理のデータを理解し、隠れたパターンを明らかにすることで、作業を高速化して新たな利益を見出す能力を持っています。ThoughtSpotのようなAI機能を活用したBIツールにより、データサイエンティストでなくても、自然言語で質問したデータに関する問いかけに対してすぐに回答を得ることができます。
BI開発のツールとしてAIを使用すれば、人的資本(リソース)をより戦略的な業務に振り向けることができます。
3. サプライチェーン管理:AIがもたらすインサイトを用いて、より効率的なサプライチェーン管理を構築
BCG(ボストンコンサルティンググループ)とAera Technology(アエラ・テクノロジー)が実施した調査では、AIを活用したサプライチェーン管理は、まだその潜在能力を十全に発揮するまでには成熟していないことが示されています。一方、マッキンゼーは、AIを早期に導入した企業・組織は、AIを使っていない競合他社と比べて、物流コストを15%削減し、在庫レベルを35%改善し、サービスレベルを65%向上させたとしています。言い換えれば、サプライチェーンには潜在的な隠れた価値があり、その価値が解き放たれるのを待っているということです。
企業のサプライチェーン関連業務は、人間が処理できる量以上の情報を生み出すため、AIを活用できる有力な領域と言えます。AIは、膨大な量のデータを取り込み、AIでなければ気付けないようなパターンやインサイトを見出すことにかけては、非常に優秀です。アクセンチュアは、企業がインテリジェントなサプライチェーンを構築するために、サプライチェーンにおけるAIの活用例を3つ紹介しています。
現在のサプライチェーンモデルのバーチャルツイン(バーチャルな複製)を作成することによる、先進的なシナリオ・モデリング
社内外のデータを統合し、より良い予測をサポートする総合的な需要計画
サプライヤーリスクの監視および解決により、サプライチェーン全体をよりよく理解し、自社の基準にサプライヤーが確実に準拠するよう支援
アクセンチュアによると、サプライチェーン組織に助言する際、企業はサプライチェーンや取引に関する社内データと、消費、天候、流動性、マクロ経済などの外部データを組み合わせ、そこに高度なアルゴリズムを適用して、サプライチェーン業務に役立つインサイトを得たいと考えています。これらのアルゴリズムはまた、顧客レベルでの需要を予測し、企業の将来計画の立案を支援します。
将来的に、AIはサプライチェーンをより柔軟性(レジリエンス)を持った信頼のおけるものにしていくための鍵になるかもしれません。
4. サポート:AIチャットボットで、より良い顧客体験を提供
AIチャットボットは、企業がより一貫性のある顧客体験を提供し、既存顧客を維持し、サイト訪問者を新規顧客に転換させるのに役立ちます。よくある質問に回答するAIチャットボットがあれば、カスタマーサービスチームのリソースを節約し、浮いた時間でより重要度の高い問い合わせに対応できるようになります。
Salesforceによると、AIチャットボットは担当者が大量のサポートチケットを処理するための労力を軽減するだけでなく、難易度の高い質問にも一般的な質問にも即座に詳細な回答を提示することで、カスタマーサービス担当者の処理能力を高めることにも貢献します。このアプローチが目指しているのは、顧客がこみいった微妙なニュアンスを含むリクエストをする際に必要とされる“顧客とサポート担当者との人間的なつながり”を犠牲にすることなく、より効率的に対応できるようにすることです。
画材販売会社のDeSerresは、AIチャットボットの生産性の高さを実際に体験しました。パンデミックの本格化により、同社では顧客からの問い合わせが急増するという予期せぬ事態が発生したのです。カスタマーサービスチームの負担を軽減するために、AIチャットボット「Heyday」を導入しました。Heydayは、英語とフランス語に対応し、24時間365日オンラインでの問い合わせに迅速に対応することができます。
その結果は、事実が物語っています。AIチャットボットの導入により、4ヵ月で以下のような成果を上げました。
10万8,000件以上の会話を処理(従来は1万2,500件を上回る程度)
会話の自動化率が90%に上昇
95%のユーザーが人手を介さずに注文を追跡・確認
5. マーケティング:AIを活用したマーケティングでリーチを拡大
マーケティングにはデータと斬新なアイディアが不可欠です。それため、マーケティングはAIの適用が最も有望視される領域のひとつになっています。マッキンゼーによると、AIはマーケティングの生産性を高め、総経費の5~15%を削減することができます。しかもそれは、新しいキャンペーンやより正確な顧客ターゲティングに役立つデータインサイトの向上といった下流部門での生産性向上を考慮する前の話です。
自動化プラットフォームのZapier(ザピアー)は、以下のような場面でAIがマーケティング担当者を支援する未来を予想しています。
デザイナーにコンテンツのインスピレーションを提供
キャンペーンを実施する際、信頼性の高い言語翻訳を提供
顧客体験のパーソナライズ
リード(見込み客、潜在需要)の価値を予測
市場調査の支援
こうしたマーケティング業務をAIがサポートすることで、より質の高いコンテンツの作成にリソースを割くことができ、外部のマーケティングエージェンシーに依頼する必要性を減らせる可能性もあります。
AIがもたらすのは...わずかな改善?それとも無限に広がる変化?
AIが将来もたらすインパクトは未知数です。AIは便利な競争ツールになるかもしれませんし、私たちの生活をがらっと変えてしまう可能性を持つイノベーションになるかもしれません。
マッキンゼーは、AIによって業務の最大70%が自動化されると見積もっています。この見積もりは多くの疑問が残りますが、AIと自動化が、従業員に大きな目的意識と幸福感を与えながら、意味のある形で生産性を向上させる可能性を秘めていることは明らかです。よりスマートなツールとワークフローは、単純で退屈な仕事から従業員を解放し、目標達成を加速させます。
「AI」と「業務」と連携させることで得られるメリットは、さらに広がっていくでしょう。そして、企業は大幅に業績を伸ばせるようになり、会社全体で「働くこと」の意味の捉え方が大きく変わるかもしれません。
ドキュサインは、契約プロセスを改善するためにAIの可能性を探求し続けています。詳細はこちらをご覧ください。
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