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株主総会議事録への押印は必要?押印が必要なケースと廃止できるケースを解説

Author 阿部 由羅
阿部 由羅ゆら総合法律事務所・代表弁護士
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株主総会を開催したときは、必ず株主総会議事録を作成しなければなりません。慣例的に株主総会議事録への署名や押印を行っている企業が多く見られますが、法令上は必須ではありません。本記事では、株主総会議事録への押印が必要なケースと廃止できるケースをわかりやすく解説します。

目次

株主総会を開催したときは、必ず株主総会議事録を作成しなければなりません。株主総会の議事録には、慣例的に出席取締役が押印をしたり、署名まで求めたりするケースもあります。しかし、法令上は株主総会議事録への押印は、ほとんどのケースで省略することができます。最近では、「脱ハンコ」やリモート開催による業務効率化の観点から、株主総会議事録への押印を廃止する企業も増えてきています。そこで本記事では、株主総会議事録への押印の必要性や押印を廃止するメリットについて詳しく解説していきます。

株主総会議事録とは

株主総会議事録とは、株主総会における議事を記載・記録した書面または電磁的記録のことをいいます。株主総会を開催したときは、必ず株主総会議事録を作成して保存しなければなりません。

株主総会とは

株主総会議事録について解説する前に、株主総会について確認しておきましょう。株主総会とは、株主で構成される株式会社の最高意思決定機関です。株主総会では、株式会社における基本的な方針や重要な事項などを、株主の投票によって決議します。また、取締役が業務執行や決算内容を株主総会において報告するなど、株主が役員から経営に関する情報伝達を受ける場としても機能しています。

株主総会議事録の作成義務

株主総会を開催したときは、株主総会議事録を作成することが義務付けられています(会社法318条1項)。

株主総会議事録の作成が義務付けられているのは、株主総会の議事について、株主や債権者に対して、透明性を確保するためです。もともと株式会社に出資している株主や債権者は、その会社の意思決定について強い関心を持っているでしょう。株主総会議事録がきちんと作成・保存されていれば、株主や債権者はそれを閲覧することで、株主総会において何が話し合われ、何が決定されたのかを知ることができます。

株主総会議事録の記載事項

株主総会議事録の記載事項は、会社法施行規則72条において定められています。具体的な記載事項は以下のとおりです。

  1. 株主総会が開催された日時および場所(※役員または株主が会場以外で出席した場合には、その出席の方法も記載する)

  2. 株主総会における議事経過の要領およびその結果

  3. 株主総会において述べられた一定の意見または発言があるときは、その内容の概要

  4. 株主総会に出席した取締役、執行役、会計参与、監査役または会計監査人の氏名または名称

  5. 株主総会の議長が存するときは、議長の氏名

  6. 議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名

株主総会議事録の保存期間

株主総会議事録の原本は、株式会社の本店に10年間備え置かなければなりません(会社法318条2項)。

また、株式会社に支店がある場合には、原則として支店にも株主総会議事録の写しを5年間備え置く必要があります(同条3項本文)。ただし、電磁的記録をもって作成された株主総会議事録につき、支店において株主・債権者が閲覧できる措置を講じている場合には、支店に株主総会議事録の写しを備え置く必要はありません(同項但し書き)。

株主総会議事録への署名・押印は原則不要

慣例的に出席取締役が株主総会議事録への署名・押印を行っている企業が多く見られます。しかし、法令上は株主総会議事録への署名や押印は必須とはされていません。

会社法が施行される前の旧商法では、株主総会議事録について、議長および出席取締役が署名または記名押印をすることを義務付けていました。一方、現行の会社法では、議長や出席取締役の株主総会議事録への署名や押印を義務付ける規定はありません。したがって、署名や押印がなくても、株主総会議事録は適法かつ有効です。

現在でも、株主総会議事録への署名や押印を行っている企業が存在するのは、旧商法の名残であるか、または署名や押印することへの安心感に由来する慣例であると考えられます。一方、最近では、「脱ハンコ」の考え方やリモートワークが普及したことに伴い、株主総会議事録への署名や押印を廃止する企業も増えてきています。

例外的に株主総会議事録への押印が必要なケース

株主総会議事録への押印は法令上不要ですが、定款において別段の定めがあれば、その定めに従います。すなわち、定款で議長や出席取締役の押印を義務付けている場合には、該当する者による株主総会議事録への押印が必要です(署名についても同様)。この場合、株主総会議事録への押印を廃止するには、定款変更を行わなければなりません。

また、取締役会が設置されていない株式会社において、複数の取締役の中から代表取締役を選任する場合には、登記手続きとの関係で出席取締役の実印による押印が必要となります。ただし、代表取締役を再任するときや、従前の代表者が株主総会に出席した上で届出印を押印したときは、出席取締役の押印は不要です。

登記手続きに関する株主総会議事録への押印が必要かどうかは、登記事項などによって異なるので、法務局に確認することをおすすめします。

株主総会議事録への署名・押印を廃止するメリット

株主総会議事録への署名・押印は、法令上必須ではないので、続けている企業は廃止を検討してもよいかもしれません。株主総会議事録への署名・押印を廃止するメリットとしては、主に以下の2点が挙げられます。

  1. 署名・押印のための回覧を行わずに済む

  2. リモート化との親和性が高い

1. 署名・押印のための回覧を行わずに済む

株主総会議事録に議長や出席取締役が押印する場合、署名や押印のための回覧を行う必要があります。議事録の持参や郵送などによって株主総会議事録の原本を回覧することは、それ自体が労力を伴う作業です。

株主総会議事録への署名・押印を廃止すれば、こうした回覧の手間が省けます。議事録作成業務を担当する従業員の負担が軽減され、労働時間や人件費の軽減につながるなど、業務効率化の観点からメリットが期待できるでしょう。

2. リモート化との親和性が高い

株主総会議事録を電子データ(電磁的記録)によって作成すれば、本店や支店に足を運ぶことなくリモートで閲覧できるようなり、リモートワークの推進や業務の効率化につながります。

電子データによって作成される株主総会議事録には、物理的に署名や押印をすることができません。そのため、株主総会議事録の電子化は、必然的に署名や押印を廃止することになります。株主総会議事録への署名・押印の廃止は、働き方改革の一環とも捉えることができるでしょう。

なお、電子データの株主総会議事録についても、電子署名を付すことは可能です。署名や押印を廃止するのが不安だという場合は、電子署名を用いるのがよいでしょう。

まとめ

株主総会議事録への押印は、押しておけば「何となく安心」に感じるかもしれませんが、法令上は不要とされています。登記手続きとの関係で押印が求められる場合などを除き、ほとんどのケースにおいて、株主総会議事録への押印は廃止しても特に支障はありません。

株主総会議事録への押印を廃止することは、業務効率化などの観点から多くのメリットがあります。慣例的に株主総会議事録への押印を続けている企業は、廃止を検討してみてはいかがでしょうか。

おすすめ記事:取締役会議事録はなぜ必要?記載すべき内容や押印義務、電子化のメリットを解説

Author 阿部 由羅
阿部 由羅ゆら総合法律事務所・代表弁護士

ゆら総合法律事務所・代表弁護士(埼玉弁護士会所属)。1990年11月1日生、東京大学法学部卒業・同法科大学院修了。弁護士登録後、西村あさひ法律事務所入所。不動産ファイナンス(流動化・REITなど)・証券化取引・金融規制等のファイナンス関連業務を専門的に取り扱う。民法改正・個人情報保護法関連・その他一般企業法務への対応多数。同事務所退職後、外資系金融機関法務部にて、プライベートバンキング・キャピタルマーケット・ファンド・デリバティブ取引などについてリーガル面からのサポートを担当した。2020年11月より現職。一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。弁護士業務と並行して、法律に関する解説記事を各種メディアに寄稿中。

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