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基本契約書と個別契約書の違いとは?役割分担や締結時の注意点などを弁護士が解説

Author 阿部 由羅
阿部 由羅ゆら総合法律事務所・代表弁護士
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継続的に取引を行う場合、「基本契約書」を締結した上で、個々の取引を行う際に「個別契約書」を締結するのが一般的です。本記事では、基本契約書と個別契約書の違いや、どちらを優先するのかが明確になっていることを確認するなど、締結時に注意するべきポイントを解説します。

目次

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契約書を交わすビジネスパーソン

継続的に取引を行う当事者の間では、まず「基本契約書」を締結した上で、個々の取引を行う際に「個別契約書」を締結するのが一般的です。では、基本契約書と個別契約書の違いは何なのでしょうか。また、それぞれの契約を締結する際にはどのような点に注意すればよいのでしょうか。本記事では、基本契約書と個別契約書の役割分担を整理しながら、両者の違いをわかりやすく解説します。

基本契約書と個別契約書との違い

「基本契約書」とは、当事者同士が行う一定の範囲において、取引全般に適用されるルールを定めた契約書です。英語では「Master Agreement」「Master Service Agreement(MSA)」「Master Contract」などと呼ばれます。

これに対して「個別契約書」は、基本契約書が適用されることを前提として、個々の取引を行う際に締結する契約書です。英語では「Individual Agreement」「Individual Contract」などと呼ばれます。

基本契約書と個別契約書、役割における違い

同じ相手方との間で継続的に取引を行う場合、取引のたびに細かい条件交渉を行うのは煩雑です。基本的には「これまでと同じように」条件を設定することが、取引の円滑化につながります。そのためには、最初に共通する取引条件を定めた上で、個々の取引に特有の事項だけをその都度定めるのが合理的です。

この場合、すべての取引に共通して適用される条件を定めるのが「基本契約書」、個々の取引に特有の事項を定めるのが「個別契約書」となります。最初の取引を始める前に基本契約書を締結し、個々の取引を行う際に個別契約書を締結します。

基本契約と個別契約の両方を締結する取引の例

基本契約と個別契約の両方を締結すべきなのは、同じ当事者の間で同種の取引が継続的に行われる場合です。

例えば、以下のようなケースでは、基本契約を締結した上で、取引ごとに個別契約を締結するのがよいと考えられます。

  • 製品の製造を継続的に委託(受託)する場合

  • コンテンツの制作を継続的に委託(受託)する場合

  • 同種の製品を継続的に売買する場合

  • 同種のサービスの提供を継続的に行う(受ける)場合など

基本契約書に定めるべき内容とは

基本契約書に記載すべきなのは、すべての取引に共通して適用される事項です。

例えば、以下のような事項が基本契約書に定められます。

  1. 基本契約を適用する取引の範囲

  2. 基本契約と個別契約の関係性

  3. 納品・検収の方法

  4. 報酬(代金)の計算方法・支払方法

  5. 契約不適合責任

  6. 知的財産権等の帰属

  7. 秘密保持

  8. 契約の解除

  9. 準拠法・合意管轄

1. 基本契約を適用する取引の範囲

取引の種類などによって、基本契約を適用する取引の範囲を定めます。同じ当事者の間で異なる種類の継続的取引を行う場合は、その種類に応じて基本契約書を分ける場合もあります。

2. 基本契約と個別契約の関係性

基本契約と個別契約の内容が矛盾する場合に、どちらの規定を優先して適用するかを定めます。個別契約において柔軟に特約事項を定めることができるように、個別契約を優先するのが一般的です。

3. 納品・検収の方法

受託者が委託者に成果物を納品する取引の場合、基本契約において、受託者による納品と委託者による検収の方法を定めます。納品については成果物の交付方法など、検収については検収期限や不合格時の修正などについて定めておきます。

4. 報酬(代金)の計算方法・支払方法

個々の報酬(代金)額は取引によって決まりますが、金額の計算方法が共通である場合は、その計算方法を基本契約で定めます。また、報酬(代金)の支払いに関して、支払いの方法(銀行振込など)や締め日・支払時期に関する共通ルールなどを基本契約で定めます。

5. 契約不適合責任

業務や納品した製品などが契約内容に適合していない場合に、受託者(売主)が委託者(買主)に対して負う責任の内容を定めます。契約不適合責任のルールは民法で定められていますが(民法562条以下)、基本契約において異なるルールを定めることも原則として可能です。

6. 知的財産権等の帰属

取引に基づいて発生した知的財産権等が、当事者のうちどちらに帰属するかを基本契約において定めます。

7. 秘密保持

当事者間でやり取りした営業秘密や顧客情報などの秘密情報につき、原則として相手方の承諾を得ることなく第三者に開示してはならない旨を基本契約で定めます。なお、権限を有する行政機関から開示を求められた場合や、専門家および関連会社に対する開示については、例外的に認める場合が多くみられます。

8. 契約の解除

契約違反、支払不能や倒産手続開始、財務状況の悪化、反社会的勢力に該当するなどの事象が生じた場合に、基本契約および個別契約を解除できる旨を基本契約で定めます。

9. 準拠法・合意管轄

基本契約および個別契約に適用される法(=準拠法)と、紛争が発生した場合に出訴すべき裁判所(=合意管轄)を基本契約で定めます。

個別契約書に定めるべき内容とは

個別契約書に記載すべきなのは、取引によって個別に定める必要がある事項です。例えば、以下のような事項が個別契約書に定められます。

  1. 発注する業務・製品などの仕様・数量・納期

  2. 報酬(代金)の金額・支払時期

  3. 特約事項

1. 発注する業務・製品などの仕様・数量・納期

具体的に発注する業務や製品の仕様が個々に異なる場合は、その仕様の詳細を個別契約で定めます。また、発注数量や納期は取引によって異なるため、個別契約において定めることになります。

2. 報酬(代金)の金額・支払時期

個々の取引における報酬(代金)の金額については、取引ごとに個別契約で定めます。基本契約において計算方法が定められている場合は、特段の事情がない限り、個々の取引金額もその方法に従って計算します。報酬(代金)の支払時期は、基本契約のルールに従って定める場合もありますが、念のため個別契約でも明記するケースが多いです。

3. 特約事項

基本契約で定められたルールを個々の取引について適用せず、別のルールを適用する場合には、その変更内容を特約事項として個別契約に記載します。

基本契約と個別契約を締結する際に注意すべきこと

基本契約と個別契約を締結する場合、個々の取引にはその両方が適用されます。したがって、取引ルールの全体像を把握するためには、基本契約書と個別契約書の両方を確認しなければならない点に留意すべきです。

また、個別契約書を締結する際には、基本契約書と矛盾していないかを確認することが大切です。意図的に異なる内容を定める場合は、基本契約書と個別契約書のどちらを優先するのかが契約上明確になっていることを確認しましょう。

基本契約と個別契約の締結には電子署名が便利

基本契約書と個別契約書を締結する取引については、両方の契約書を一体的に管理する必要があります。近年では、こうした契約書を電子的に締結・保管する企業も増えてきています。

ドキュサインの電子署名(製品名:Docusign eSignature)を活用すれば、オンライン上でスムーズに基本契約や個別契約を締結できます。また、ワークフローの自動化によって作業負担を軽減したり、契約締結までの時間を短縮できるほか、電子契約では郵送費や印紙税がかからないので、コスト削減にもつながります。

電子契約の導入により、契約業務の大幅な効率化を実現することができます。紙で契約を締結している場合は、ぜひこの機会に契約書の電子化を検討してみてはいかがでしょうか。

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Author 阿部 由羅
阿部 由羅ゆら総合法律事務所・代表弁護士

ゆら総合法律事務所・代表弁護士(埼玉弁護士会所属)。1990年11月1日生、東京大学法学部卒業・同法科大学院修了。弁護士登録後、西村あさひ法律事務所入所。不動産ファイナンス(流動化・REITなど)・証券化取引・金融規制等のファイナンス関連業務を専門的に取り扱う。民法改正・個人情報保護法関連・その他一般企業法務への対応多数。同事務所退職後、外資系金融機関法務部にて、プライベートバンキング・キャピタルマーケット・ファンド・デリバティブ取引などについてリーガル面からのサポートを担当した。2020年11月より現職。一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。弁護士業務と並行して、法律に関する解説記事を各種メディアに寄稿中。

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