沢渡あまね氏に聞く!ハイブリッドワークにおけるコミュニケーションのあり方
ハイブリッドワークの環境下において、コミュニケーションにおける課題を感じている企業は多いのではないでしょうか。あまねキャリア株式会社 代表 沢渡あまね氏が、デジタルをベースとしたコミュニケーションの課題を克服するための対策を提言していきます。
作家/ワークスタイル&組織開発専門家、沢渡あまね氏のインタビュー連載。前回の『新たな勝ちパターンを生み出すDX』では、DXがデジタルエクスペリエンスの延長線上にあるとお伝えしました。今回取り上げるテーマは「ハイブリッドワーク」です。デジタルを活用した業務において、コミュニケーションにおける課題を感じ、テレワークを続けるか、これまでのように出社しての勤務に戻すか、今も悩んでいる企業は多いでしょう。こうした課題を克服するための対策を、あまねキャリア株式会社 代表 沢渡あまね氏が提言していきます。
沢渡あまね氏に聞く!デジタル時代を生き抜く新しい働き方と未来像(全3回連載) |
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ハイブリッドワークで必要なのは「自分たちの勝ちパターン」の構築
沢渡氏:(以下同)働き方改革が進み、広がりつつある働き方の1つに「ハイブリッドワーク」があります。私はこれを「デジタルとアナログを組み合わせて、勝ちパターンを実現していく手段」、そして「それぞれの人やチームが、自分たちの勝ちパターンで仕事ができる環境」と定義づけています。ベースにあるのはデジタル活用です。
勝ちパターンは、企業の事業部門ばかりではなく管理部門にも存在します。例えば、ハイブリッドワークによる経理部の勝ちパターンを考えてみましょう。経理部門はこれまで、紙の帳票を対象とした事務作業、差し戻しや問い合わせ対応を含めて、さまざまな部門とのやりとりに忙殺されてきたでしょう。もう、こういったオペレーションはITに載せてどんどん手放し、経理部自体はそこでやりとりされるデータを分析して、お金の使い方をアドバイスする、そういう立場になるのが望ましいと私は考えています。また、デジタル活用で紙のやり取りが削減できれば、それぞれの部門も本来の業務に専念できます。営業部であれば営業活動に、研究開発部であれば研究活動にフルコミットできますし、さらに取引先においても、「見積書を郵送してください」「記入不備につき出し直してください」など、顧客企業の要求から解放されます。
そしてもう1つ重要なのは、この勝ちパターンは職場単位でも異なる点です。製造現場が日中出社して働いているからといって、他の部門もすべて朝から出社する必要はありません。日本企業は公平性にこだわる傾向がありますが、これはみんなで負けパターンへの道を突き進んでいるのと同じではないでしょうか。なぜなら、各部門で求められる専門性は異なり、もっと言えば、各部に所属する一人ひとりのモチベーションや家庭の事情も異なっているからです。それらを勘案しながらそれぞれに最適な勝ちパターンを考え、この勝ちパターンをもとに成果を出していく方がはるかに合理的です。
日本のハイブリッドワークは二極化状況に
日本企業において、ハイブリッドワークは定着の段階にあるのか―。私の観察するところ、二極化状態にあると思います。つまり、新型コロナウイルス感染症が拡大する前の状態に戻ろうとする企業と、新しい働き方を積極的に採り入れている企業です。
前者では、感染状況も落ち着いたので完全出社に戻す対応がみられます。それは企業の考え方、ポリシーですから必ずしも悪いわけではありませんが、これからの時代、企業組織の中心を作り上げていくデジタルネイティブの若い世代の実情を考えると、古きよきアナログ前提のやり方に戻す方法が適しているのでしょうか。将来的に、取引先やデジタルネイティブの未来の従業員からそっぽを向かれてしまわないでしょうか。この点を正しく押さえる必要があると考えています。
その一方で、フルリモートワーク、ハイブリッドワークに舵を切った企業は、地方であっても求職者が増えています。例えば、配偶者の転勤に帯同する方の場合、昔は古い体質の企業しかなく、就職をあきらめるか、我慢して働く人が一定数の割合でいたものでした。しかし、フルリモートワーク・ハイブリッドワークが可能な企業が出てきたため、そうした方が今まで通り専門性を生かしながら、やりがいを持って働けるようになったのです。
ハイブリッドワークにおけるコミュニケーションの問題を克服する3つの処方箋
ハイブリッドワークへの移行でよく懸念される点として、コミュニケーションに関するものがあります。完全出社で働くのに比べて、上司と部下、また同僚同士のコミュニケーションがとりにくくなるため、情報共有がうまくいかない、アイデアのもとになるような雑談ができない、企業への帰属意識が低下するといわれています。
これはある意味、当然の現象です。今まで多くの企業はハイブリッドワークの経験がなく、この状況にまったく慣れていないからです。しかし、これは新しい働き方が定着するまでの生みの苦しみだと考え、しっかり向き合ってはいかがでしょうか。
克服する方法は大きく3つあります。1つめは、ハイブリッドワークに慣れるためのスキルアップ・トレーニングです。新しい働き方には新しい能力が必要です。そのために、やはり一定のトレーニングは必要でしょう。図1は、自著『どこでも成果を出す技術~テレワーク&オフィスワークでなめらかに仕事をするための8つのスキル』から、デジタルワーク、ハイブリッドワークに必要なスキル&マインドをまとめたものです。
この図の見方ですが、一番下の「8. ITスキル/リテラシー」はすべての従業員に身につけていただきたい、最も基礎的なものです。次は、1から7まで順番に獲得していっていただくのですが、1は新入社員レベルから、そして5、6、7と数字が大きくなるにつれて中間管理職におすすめしたい内容になっています。ハイブリッドワークへの移行に抵抗を示しているのは、実は中間管理職、経営層であるとも言われていますが、こうしたスキル&マインドが自分のものにできれば、自信をもってマネジメントできるようになります。
2つめは、デジタルエクスペリエンスの蓄積です。先日、リモートワークを始める大企業を対象に、その心構えを身に着けていただく2時間ほどの実習講演を行いました。Zoomでオンライン会議をしながら、チャット機能を使ってお互いの意見を表明する内容です。最初はとまどう方も多くいましたが、実際試してみると、「画面上で挙手したりしながら発言するよりも、チャットのほうが意見をいいやすい」「別の参加者の意見に共感できるポイントがあると、自分の意見も示しやすい」など、短い時間の中でも肯定的なコメントが返ってきたものです。
最後の3つめは、近未来における理想像の共有です。日常は目先の仕事で忙しく、また収益も上げなくてはならないため、意識しなければそんな時間をとろうとは考えないと思います。しかし、事業環境は時々刻々と変化しており、気がついたら競争力がなくなっていた、ブランドのファンが減っていた、そんな状況も起こり得ます。そうなる前に、デジタルを使って生まれる余白の時間を自分たちは何に使うべきなのか、自分たちにとって、どのような未来へ向かうのが最善なのか、多忙を理由にせず、ぜひこのような対話や語らいの場を持っていただきたいと思います。
こうした取り組みは、ハイブリッドワーク環境におけるコミュニケーションを円滑化し、自分に適した勝ちパターンでビジネスを推進するベースとなっていきます。
次回は、劇的にビジネス環境や働き方が変化するなか、デジタルワークの先にどのような世界が広がるのかを考えていきます。
『組織変革Lab』主宰。あまねキャリア株式会社CEO/浜松ワークスタイルLab取締役/株式会社NOKIOO顧問/ワークフロー総研フェロー。DX白書2023有識者委員
日産自動車、NTT データなど(情報システム・広報・ネットワークソリューション事業部門などを経験)を経て現職。400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。主な著書:『バリューサイクル・マネジメント』『新時代を生き抜く越境思考』『どこでも成果を出す技術』『職場の問題地図』『マネージャーの問題地図』『業務デザインの発想法』『仕事ごっこ』 趣味はダムめぐり。#ダム際ワーキング 推進者。