サインレスでもOK?なぜカード決済や荷物受け取り時に印鑑やサインがなくても問題ないのか
昨今「サインレス決済」や「サインレス宅配」が広がっています。一体どのような状況ならサインがなくても構わないのでしょうか。また、サインがなくても問題ないのでしょうか。今回は、サインレスというキーワードから、クレジットカード決済や荷物の受け取り時における署名や押印の役割を探っていきます。
最近、クレジットカードの利用や宅配便の受け取りでサインや受領印が不要なときがあります。皆さんも「サインするもの」、「ハンコを押すもの」と思って身構えているのに、特に署名や押印を求められず拍子抜けした経験があるかもしれません。昨今では「サインレス決済」や「サインレス宅配」という形で広がっていますが、一体どのような状況ならサインがなくても構わないのでしょうか。また、サインがなくても問題ないのはなぜでしょうか。今回は、サインレスというキーワードから、カード決済や荷物の受け取り時における署名や押印の役割を探っていきます。
サインレス決済とは
サインレスとは、署名がないことを意味し、日本では「自署なし」と呼ばれることもあります。署名は本人であることを証明したり、本人が確認したことを記録に残すために行うものです。したがって、サインレス決済やサインレス宅配は、そうした行為の必要ない取引ということになります。
サインレス決済が認められるケース
サインレス決済は、購入者がサインや暗証番号の入力なしに、クレジットカードを使って買い物ができるというものです。手続きを簡素化して、決済時に購入者を待たせないことを目的に導入されました。ただし、いつどこでもサインレス決済を行えるというわけではありません。これが可能になるのは「クレジットカード会社とサインレス決済に関して契約を結んでいる加盟店」で「少額の決済」を行うときに限られます。加盟店の例として、コンビニエンスストア、スーパーマーケット、ドラッグストア、飲食店などが挙げられます。少額決済の上限については、具体的な金額は加盟店によって異なります。例えば、セブンイレブンの上限額は10,000円(2022年12月時点)で、イオングループの場合は30,000円です。支払いに関して分割払いは選択できず、すべて一括払いになります。
一方、オンラインショッピングの場合は、上記とは条件が異なります。サイトへのログイン時にすでに本人確認が完了しており、サインや暗証番号に依らなくても本人確認は可能という前提に立っています。また、最近ではセキュリティコードの入力を求める場面も増えています。
サインレス決済に誤りがあった場合の対処法
もし、クレジットカード利用に誤りがあった場合はどうすれば良いのでしょうか。カードの利用に誤りがある場合として、具体的には2つのケースが考えられます。1つは、クレジットカードを使ったのは自分だが、決済処理が正しくないとき、もう1つは、クレジットカードをなくしたり、盗まれたりした結果、誰かに勝手に使われてしまったケースです。
決済処理が正しくないときは、クレジットカードを利用した加盟店にすぐに連絡します。返金処理は加盟店側で行われます。しかし、なかには時間が経つと補償対象外とする加盟店もあるため、注意が必要です。
盗難・紛失の場合は、できるだけ早くクレジットカード会社に連絡します。調査の結果、不正利用だと確定した場合は、当該カードの利用停止続きがとられ、クレジットカード会社の用意する制度にしたがって補償手続きが行われます。こちらも時間が経つと補償の対象外になる場合があります。制度があるからといって、安心しすぎない方がよいでしょう。
どちらにしても重要なのは、早く気づくということです。定期的に利用明細をチェックする習慣をつけて、何かおかしいと思ったらすぐアクションを起こしましょう。
サインレス宅配とは
さて、今度はサインレス宅配についてみていきましょう。サインレス宅配とは、受け取り時にサインや受領印が要らない配送を意味します。そもそも、宅配便で受け取り伝票にサインや受領印を求めるのは、荷物を預かる立場である運送会社が確かに託されたものを引き渡したと、荷主に示すことのできる証拠として利用するためです。荷主から「委託した荷物が配達されていない」、受け取り主から「注文した荷物を受け取っていない」とクレームがきた際に、トラブルになるのを避けるためでもあります。
しかし、実は受け取りにサインや受領印が必要であるという法的根拠はありません。物流業界を管轄する国土交通省は、貨物なら「標準貨物自動車運送約款」、宅配便については「標準宅配便運送約款」という取引条項を定めて告示しています。これは、運送事業者に対して「望ましい運送の普及を図るために、このような決まりごとを設けましょう」といういわば事業ガイドラインですが、ここには荷物の引き渡しに関して署名や押印が必要であるとの記述はありません。実際の運用においては、この標準宅配便運送約款に宅配便事業者がそれぞれの企業の考え方を加えて、自社の約款を作成しています。ここでもやはりサインや受領印の扱いについては定められていません。
一方、配達物が信書である場合はサインや受領印が必要であることが明記されています。信書とは、特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、または事実を通知する文書のことで、郵便法および信書便法に規定されています。例えば書状や請求書、証明書、ダイレクトメールなどがそれにあたります。
信書に該当するもの(郵便局HPより)
書状
請求書の類:納品書、領収書、見積書、願書、申込書、申請書、契約書、承諾書など
会議招集通知の類:結婚式等の招待状、業務を報告する文書など
許可書の類:免許証、認定書、表彰状など
証明書の類:印鑑証明書、納税証明書、戸籍謄本、住民票の写し、健康保険証、履歴書、給与支払明細書、健康診断結果通知書など
ダイレクトメール:文書自体に受取人が記載されている文書(街頭/店頭における配布等を前提として作成されるチラシやパンフレットのようなものは含まず)など
つまり、信書を除けばサインや受領印が必要であるとの約款上の制約はなく、これは宅配便事業者が配達したという証拠を確保するための手続きです。サインレス宅配はこれを省略しようという動きになります。
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なぜサインレス宅配が広まったのか
最近では、コロナ禍により非接触・非対面での対応が求められるようになったことからサインレス宅配への動きが加速しています。例として、各宅配便事業者の対応状況(2023年1月時点)を挙げてみます。
ヤマト運輸
受領印・サインの省略および非対面での荷物のお受け取りについて:対面・非対面にかかわらず、受領印、サインを省略可能であることを記載。ただし、新型コロナウイルスの感染拡大にともなう一時的な対応との注意書きがあります。
佐川急便
宅配便お届け時の非対面でのお受け取りについて:非対面での受け取りを選択した場合は、受領印、サインを省略可能であることを記載。
日本郵便
ゆうパックおよび書留郵便物等のお受取方法について:希望に応じて置き配を実施、受領印についても希望に応じて配達担当者が届けた旨を記録することで代えると記載。ただし、この受取方法は、新型コロナウイルスの感染拡大防止対策として限定的に行うものとの注意書きがあります。
このように、サインレス宅配はコロナ禍に起因する一時的措置であると認識されているようです。
サインレス宅配で誤りがあった場合の対処法
こちらでも気になるのが、サインレスでやりとりすることで起こるトラブルの発生です。他の人が自分宛ての荷物を受け取ってしまう、あるいは「置き配」の結果、盗難に遭うというリスクは考えられなくはありません。最近では、「置き配」によるトラブルの相談件数も増えているようです。国民生活センターでは、「注文前に利用規約をよく読み、誤配、盗難などのリスクを理解し、トラブルの際の補償、連絡先を把握しておきましょう」と注意を促しています。
事業者の中には、こうした事態を受けて「置き配保険」を始めたところもあります。例えば日本郵便では、日本郵便との間で事前に合意した荷送人から差し出された荷物で、商品を購入した注文者からの指定に基づき「置き配」されたものが盗難された場合、注文者に対して損害が補償されます。1事故あたりの支払限度額は、送料などすべてを含んで10,000円となっています。
サインレスのメリット・デメリットを理解しておこう
サインレスのメリットは、何より手続きにかかる時間の短縮にあります。また、ウィズコロナ社会の今にあっては、紙やペン、ハンコといった物理的なツールに触れなくてもいいという側面もあります。しかしその一方で、サインをしないことで、本人であることを証明したり、本人が確認したことを記録に残すことができず、不正利用やトラブルに巻きこまれるリスクも高くなります。そう考えると、普段何気なく行なっている署名や押印にも、重要な意味があることがわかるのではないでしょうか。