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口約束でも契約は成立する?法的な効力や留意点を詳しく解説

Author 阿部 由羅
阿部 由羅ゆら総合法律事務所・代表弁護士
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契約は口約束だけでも成立しますが、契約成立の事実を立証することは困難です。トラブルを避けるためには契約書を作成しましょう。本記事では、口約束による契約の効力(有効性)や証明方法、口約束に関するトラブル事例、注意点などを解説していきます。

目次

契約を締結するにあたって、契約書の作成は必須とされていません。そのため、契約は口約束でも成立します。しかし、口約束だけで契約を締結すると合意内容が不明確になり、トラブルのリスクが高まります。契約トラブルを防ぐため、できる限り契約書を作成するのがよいでしょう。

本記事では、口約束による契約の効力(有効性)や、口約束による契約トラブルに関する事例や注意点などを解説していきます。

口約束とは?

「口約束」とは、文書などによらず口頭だけで取り決められた約束をいいます。例えば、以下のような場合をいいます。

  • AとBの間で、AがBの車を100万円で買うことを口頭で合意した。

  • 酒屋を営むBに対して、Aが自宅へビール瓶3本を2000円で持ってきてくれるように口頭で頼み、Bはこれを口頭で承諾した。

口約束による契約(口頭契約)の法的効力

契約を締結するにあたって、契約書の作成は必須ではありません。契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成やその他の方式を備える必要がないからです(民法522条2項)。したがって、口約束だけでも契約は有効に成立します

口約束による契約に時効はあるのか?

口約束での契約(口頭契約)について、書面での契約と異なる特別のルールは適用されません。契約の有効期間についても、口約束だけに適用される特別の時効などは存在しません。当事者の合意によって、契約の有効期間が決まります。

ただし、書面での契約と同様に、口約束での契約にも民法で定められた消滅時効のルールが適用されます。例えば、契約に基づく債権(請求権)は、権利を行使できることを知った時から5年、または権利を行使できる時から10年のいずれかを経過すると、時効により消滅します(民法166条1項)。

口約束による契約が無効や取り消しとなるケースとは?

口約束による契約は、民法その他の法律の規定によって無効となる、または取り消されることがあります。一例として、以下のようなケースでは、口約束による契約が無効または取り消しとなります。

【口約束が無効と場合】

  • 契約内容が公序良俗に反している場合(民法90条)

  • 契約内容が法律の強行規定に反している場合(民法91条)

  • 一方当事者の意思表示が真意でなく、相手方がそのことを知り、または知ることができた場合(=心裡(しんり)留保、民法93条1項但し書き)

  • 通謀虚偽表示の場合(民法94条1項)

  • 書面の作成が必須とされている契約を、口約束で締結した場合(事業用定期借地契約、任意後見契約など)

【口約束が取り消しとなる場合】

  • 契約内容について重要な勘違いがあった場合(=錯誤、民法95条)

  • 一方当事者が騙されて契約を締結した場合(=詐欺、民法96条1項)

  • 一方当事者が脅されて契約を締結した場合(=強迫、民法96条1項)

ビジネスの現場における口約束の実情

ビジネスにおける口約束の実情はどのようになっているのでしょうか。ドキュサインが契約業務に携わる国内のビジネスパーソン計843名(一般社員636名、経営層207名)を対象に実施した調査(2024年9月、オンライン実施)によると、回答者全体のうち52.2%が、契約書を締結せずに取引をした経験があると回答しました(取引開始後に締結した場合を含む)。

その理由として、一般社員が最も多く挙げたのは「契約書の作成、締結、管理には時間と労力がかかるから(33.2%)」でした。これに対して、経営層は「今までにトラブルになったことがないから(47.7%)」が最多で、次いで「顧客や取引先は口頭や簡易的な書面(メール、SMS、コミュニケーションアプリを含む)でのやりとりに慣れているから(口約束など)(34.4%)」となっています。

一般社員よりも経営層の方が口約束を用いており、経営層は顧客との信頼関係を重視しているため、口約束が多くなる傾向にあると考えられます。

口約束での契約締結によるトラブル

口約束による契約は証明が難しいため、当事者間においてトラブルが発生しやすく、リスクが大きい点に注意が必要です。

契約書があれば合意内容が明確になりますが、口約束のみで契約書を作成していないと、契約の有無や内容について、当事者の認識が食い違ってしまい、契約トラブルに発展するケースがあります。例えば、以下のようなトラブルがたびたび発生します。

  • 一方の当事者は契約を締結したと主張しているのに、相手方は契約を締結していないと主張している。

  • 口約束で合意した報酬の金額や業務の内容などについて、当事者の間で認識が異なっていた。

  • 契約を締結した時期について、当事者の間で認識が異なっていた(債務の履行期限や時効との関係で問題になり得る)など

口約束を証明する方法

契約書が存在せずに口約束のみの場合、以下の資料などが十分に揃っていれば、契約締結の事実を証明できる可能性があります。

  • メールなどメッセージのやりとり

  • 過去に締結した契約書

  • 預貯金口座の入出金記録

  • 納品記録

  • 会計帳簿 など

ただし、口約束はさまざまな資料を用いて総合的に立証する必要があるため、契約書がある場合に比べると、立証のハードルは高いと言わざるを得ません。また、口約束は細かい契約条件が曖昧になりやすい点も、契約トラブルを引き起こす原因になりがちです。

口約束をする場合の留意点

やむを得ず口約束によって契約を締結する際には、一般的にトラブルのリスクが高いことを認識しつつ、相手方が信頼に足るかどうかを慎重に判断しましょう。

また、正式な契約書などは作成しない場合も、メールなどのやりとりで、取引の概要を記録しておくことをおすすめします。取引の内容を証明できる情報を残しておくことが、契約トラブルの防止につながります。

口約束によるトラブルを防ぐために

契約は口約束でも成立しますが、契約書がないと取引の内容を証明するのが難しくなります。相手方との間で「言った/言わない」の争いになり、深刻なトラブルに発展するおそれもあります。

口約束によるトラブルを防止するためには、契約書などの文書を作成するとよいでしょう。紙による「書面契約」のほか、最近では電子署名サービスによる「電子契約」も増えています。電子契約なら契約書の作成から締結、保管まで、すべてオンラインで完結するので、面倒なやり取りを減らし、スムーズに契約を締結できます。また、契約書を紛失するリスクも最小限に抑えられます。

取引のたびに契約書を作成するのが面倒なら、最初に基本契約書を作成し、個々の取引については簡易的な発注書などをやりとりする方法もあります。「信頼できる相手だから」「同じような取引をしたことが何度もあるから」などと高を括らずに、契約書を作成するよう努めましょう。

Author 阿部 由羅
阿部 由羅ゆら総合法律事務所・代表弁護士

ゆら総合法律事務所・代表弁護士(埼玉弁護士会所属)。1990年11月1日生、東京大学法学部卒業・同法科大学院修了。弁護士登録後、西村あさひ法律事務所入所。不動産ファイナンス(流動化・REITなど)・証券化取引・金融規制等のファイナンス関連業務を専門的に取り扱う。民法改正・個人情報保護法関連・その他一般企業法務への対応多数。同事務所退職後、外資系金融機関法務部にて、プライベートバンキング・キャピタルマーケット・ファンド・デリバティブ取引などについてリーガル面からのサポートを担当した。2020年11月より現職。一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。弁護士業務と並行して、法律に関する解説記事を各種メディアに寄稿中。

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