今こそ変革のチャンス!加速するデジタルトランスフォーメーション
新たな日常に伴う不確実性が高まる中、企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の動きが一段と加速しています。そんな今だからこそ、改めてDXについて理解を深め、ビジネス変革のポイントや推進にあたっての課題について再確認してみましょう。
ビジネスシーンに大きな変化をもたらすと期待されている「デジタルトランスフォーメーション(DX)」。現在、さまざまな業界や企業で推進されていることはよく知られていますが、コロナ禍によるビジネススタイルの変化をきっかけに、変革に向けた動きが一段と加速しています。「これまでのデジタル化とどう違うの?」と、ともすれば漠然としたイメージで語られることが多いDXですが、ビジネス変革のポイントや推進にあたっての課題について、もう一度再確認してみましょう。
今あらためて考える「DXとは何か?」
DXの概念は2004年、スウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授(当時)が論文で始めて提唱したとされています。それ以前にもICT活用推進の必要性は認識されていましたが、テクノロジーが加速度的な進歩を遂げる中でクラウド、IoT、ビッグデータといった新技術が続々登場し、これらを有効に活用する企業が大きな成長を遂げたことから、「デジタル技術が人々の生活すべてに変革をもたらす」というDXの考え方は世界的な共感を集め、現在に至ります。ちなみに、Digital Transformationをそのまま略すと「DT」になりますが、英語圏では変革をXで示すことが多いためDXと呼ばれるようになりました。
ビジネスにおけるDX的な考え方は情報化、デジタル化などの名前で以前から存在しています。中でもパソコン・インターネットの普及は画期的で、1990~2000年代には「ITバブル」と言われる盛り上がりを見せました。その後、一過性の流行は収まったものの技術進歩は続き、ICTは現代人の生活・ビジネスに欠かせない存在となっています。ストルターマン教授が示した変革は、今まさに実現されようとしているという印象です。
DX実現に向けた取り組みは、これまで主に欧米の企業を中心に推進されてきましたが、日本でDXが大きな注目を集めたのは、2018年に経済産業省が発表したあるレポートがきっかけでした。ここで同省は「既存のシステムを放置するとDXが実現できないだけでなく、2025年以降、最大で毎年12兆円もの経済損失が生じる可能性がある」と指摘したのです。「2025年の崖」と表現されたこの予測はショッキングなもので、大きな話題になりました。そして2020年、突然世界を襲ったコロナ禍は「オフィスへの出勤」という原則をも根本から崩し、これまでなかなか本格導入に踏み切れなかった日本企業も、いよいよ本腰を入れてDX推進を検討する段階に入ったと言えます。
DX推進のポイント
DXを考える上で注意したいのは、「最新システムの導入=DX」ではないということです。これまで行われてきたデジタル化の手法を踏襲するだけでは、ドラスティックなビジネス変革は望めません。DX実現にはシステム・ソフトウェアの導入に加え、これらのテクノロジーを有効活用してビジネスの仕組みそのものを変える取り組みが求められます。それでは具体的にどのような姿勢で臨めばいいのか、従来の情報システムが抱える課題から考えてみましょう。
たとえば事業部門単位で個々に構築され、部署の担当者だけが運用しているシステムは、複雑化・ブラックボックス化すると属人化してしまい全社的な活用ができず、ビジネスモデルの変革に結びつけることが難しくなります。また、構築したシステムの維持管理に必要なコスト負担増加は企業の経営を圧迫し、保守運用を行う人材の不足はセキュリティ低下やシステムトラブル、データ流出といったさまざまなリスクの上昇につながります。DX推進の第一歩として、まずはこれらの課題を優先的に解決することが大切でしょう。
このような既存システムの課題を解決するため、場合によっては大幅な組織改編や部署の統廃合、さらには業務全体の見直しなどが必要になることもあります。会社の方針としてDX推進を決めても、経営側と現場との認識にズレがあった場合は「かけ声倒れ」になってしまい、むしろ業務効率を低下させる結果を招きかねません。DXによる変革を成功させるには組織内すべての関係者が意思疎通を図り、合意のもとに全社規模で取り組む姿勢を打ち出すことがポイントです。
DXの「行き詰まり」を打破するコツ
2025年までのDX実現を目標に掲げたものの、さまざまな理由で変革が進まず行き詰まってしまい、悩んでいる企業が多く見られます。いくつかの事例を上げてみましょう。ある企業ではDXを推進するため全システムの刷新に着手しましたが、2年あまり経過した現在も、まだ一部でしか完了していません。調査したところ、同社のシステム開発はベンダー企業に「丸投げ」状態で、ベンダーの作業遅れが進捗を妨げていることが判明。責任者に遅れの理由を確認したところ、提示された要件定義が不明確で、具体的なニーズが絞りきれないことを指摘されました。
実際のところ、日本ではシステム関係の業務をすべてベンダーに任せ、全責任を負わせるスタイルが広く定着しています。このような環境を維持したまま変革を実現するのは、無理があると言わざるを得ません。DXを展開する際はベンダーとの関係を見直し、お互いの役割や責任の所在を明らかにした上で取り組む必要があります。
また、慢性的なIT人材不足に悩む企業などでは、既存システム保守・運用の負担が大きく、とてもDXまで手が回らないという悩みを抱えているケースが少なくありません。そのような場合は、小規模の開発工程を繰り返して期間を短縮する「アジャイル開発」の導入や、事前に不要なシステムを廃止して軽量化を図っておくなどの対策が効果的です。ただし、これらの取り組みを進める際には、あらかじめ社内体制のあり方を見直し、実行プロセスを取りまとめたガイドラインを策定して「いきあたりばったり」の変革にならないよう慎重に進めることが重要です。
まとめ
時代のキーワードとして脚光を浴びるDXですが、従来行われてきたデジタル化の延長線上にあることから定義が曖昧になり、ぼんやりとした「バズワード」化しているとの声も聞かれます。自信たっぷりに「うちは最新システムを導入してDXに成功した」と宣言しても、それだけでは日常業務が複雑になるばかりで、むしろ生産性は低下していたという結果を招きかねません。当然ながら維持管理コストも増加し、そのまま2025年の崖へと向かってしまうでしょう。大切なのは技術の「導入」ではなく、「活用」にあることを意識する必要があります。
DXを推進する要素となるAI(人工知能)、クラウド、ビッグデータなどの技術は今後も大幅な改善・進化が見込まれます。着手時に最先端であっても、完成時にはすでに時代遅れという可能性があるので、前提としてDX実現の道のりは長いと認識し、現在のビジネススタイルを詳細に分析してじっくり課題解決を図る「腰を据えた取り組み」が成功の秘訣だと言えます。
ちなみに、今回ご紹介した経済産業省のレポートには「DX実現によって2030年には実質GDP130兆円の押し上げが可能」という成功シナリオも描かれています。データをフルに活用したDXは新たなビジネスモデルを生み出すとともに、企業の競争力を高め、新製品・サービスを世界に先駆けて市場に展開する存在へと導くことでしょう。昨年から本格化した「働き方改革」と並行してDXを推進する取り組みは、新しいビジネススタイル創出の原動力としてますます存在感を高めています。
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