岸田政権の看板政策、「経済安全保障推進法案」とは?
現在、第208回通常国会で審議中の経済安全保障推進法案(経済安保)。岸田文雄内閣の看板政策の1つであり、成立後には企業活動にも大きな影響を与えると見込まれています。本記事では、経済安保の基礎知識や経済安全保障推進法案の概要についてわかりやすく解説します。
2022年4月現在、第208回通常国会で審議中の経済安全保障推進法案。岸田文雄内閣の看板政策の1つであり、成立後には企業活動にも大きな影響を与えると見込まれています。一般的に、別種の政策として捉えられがちな「経済」と「安全保障」。その両者の要素を併せ持つ「経済安全保障(以下、経済安保)」とは、どのような政策なのでしょうか。本記事では、経済安保の基礎知識や経済安全保障推進法案の概要などについて解説しながら、今後の日本経済の動きを先取りし、ビジネスの未来を探っていきます。
岸田内閣の看板政策「経済安保」とは?
経済安保とはどのような政策を指すのでしょうか。公安調査庁は経済安保について記したパンフレットで以下のように説明しています。
「各国は、自国の優位性を確保するために機微な技術・データ・製品等の獲得に向けた動きを活発化させており、例えば、適正な活動を装って標的となる企業や大学等に接近し、目的を達成する事案等が発生しています。各国は一方で、こうした活動から国益を守るために規制や取り締まりを強化しており、これらの動きをまとめて「経済安全保障」と呼ぶことがあります」(※1)
つまり経済安保とは、先端技術や機密情報などの保護を通じて、経済的な側面から国家の利益を守る政策です。近年、急速なグローバル化や国際情勢の複雑化に伴い、サイバー攻撃やサプライチェーンの混乱などのリスクが表面化しています。そうした脅威から国民や企業を守るため、世界各国で経済安保の政策が推進されています。
日本においては、岸田文雄首相の内閣総理大臣就任が、経済安保への注目を高めるきっかけになりました。岸田首相は2021年の就任時に、岸田内閣の経済成長戦略の柱として、「デジタル田園都市国家構想」などと並んで「経済安保」を掲げています(※2)。2021年10月、法案作成などを担当する経済安全保障担当大臣のポストを新設し、経済安保の有識者会議を召集して、法制化に向けた議論を進めてきました(※3)。その結果、国会に提出されたのが「経済安全保障推進法案(経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律案)」です。
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経済安全保障推進法案を構成する「4つの柱」
では、経済安全保障推進法案の概要を見ていきましょう。経済安全保障推進法案は、主に以下の4つの柱で構成されています(※4)。
①重要物資の安定的な供給の確保
国民生活や経済活動に影響の大きい物資を「特定重要物資」として指定し、国が民間企業における特定重要物資の供給計画を把握します。そのほか、特定重要物資の生産支援なども行い、サプライチェーンの強化を図ります。どのような製品が特定重要物資に指定されるかは法案に明記されていませんが、法案作成を手がけた経済安保の有識者会議においては、特定重要物資の具体例として「医薬品」「半導体」が挙げられています(※5)。
②基幹インフラ役務の安定的な提供の確保
電気・ガス・石油・水道など、社会基盤を支える14の事業分野を「特定社会基盤事業」として指定し、それらの事業者が基幹インフラを導入する際などに、事前届出や審査を義務付けます。基幹インフラの脆弱性などを国が事前にチェックすることで、サイバー攻撃などのリスクを抑制するのが目的です。
③先端的な重要技術の開発支援
政府インフラ、テロ対策、サイバー攻撃対策など、安全保障上で利用可能性のある先端技術を「特定重要技術」として指定し、その研究に関する資金支援、官民協議会の設置、調査研究業務の委託などを行います。特定重要技術に指定される研究分野には、宇宙・海洋・量子・AI(人工知能)などが想定されています。
④特許出願の非公開
核関連や先進武器開発などを主な対象とし、海外で軍事転用される可能性を国が審査します。安全保障に関する機微な特許情報を非公開にする制度を設けることで、外国への技術流出などを防ぐとともに、従来、特許情報の公開を理由に出願を諦めざるを得なかった発明者の権利保全を図ります。
企業は法案成立後を見越して、経済安保への理解を
経済安全保障推進法案は2022年1月に召集された第208回国会に提出され、2022年4月現在、審議中です。4月7日には、衆議院本会議において可決されており、政府は今国会中の成立を目指しています(※6)。
経済安全保障推進法案の成立は、企業活動にも一定以上の影響を及ぼします。事実、経団連は2022年2月に政府に提言書を提出し、「基幹インフラの安全性・信頼性の確保および特許出願の非公開化については、従来の企業活動に与える影響が大きいことから、法律成立・公布後、施行までに十分な周知・準備期間を設けることが必要」と、企業活動への影響を懸念しています(※7)。
例えば、特定事業者の基幹インフラの導入などに審査や届出を義務付ける同法案は、企業のインフラ選定に変更を迫る可能性があります。サーバーなどのインフラ選定を担当する方は、同法案の動向を把握することはもちろん、法案成立後を見越して、「経済安保の観点で安全なインフラ」を選定するための知識を備えておく必要があるでしょう。
以下の記事では、国が製品や技術の輸出を安全保障の観点から規制する「安全保障貿易管理」について解説しています。安全保障貿易管理は、企業のサーバー利用についてもガイドラインを設けていることから、「経済安保の観点で安全なインフラ」に関して重要な知見を与えてくれるでしょう。
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参考: