オンライン公証が可能に?改正公証人法で公証制度はどう変わるのか
公証制度とはどのような制度なのでしょうか。本記事では、「公証制度」や「公証人の役割」といった基礎的な知識を紹介しながら、近年注目を集める「オンライン公証」や2025年前半からの運用を目指して準備が進められている「改正公証人法」についてわかりやすく解説します。
2022年7月、政府はオンライン公証の実現などを盛り込んだ「改正公証人法」を検討していることを明らかにしました。これにより、法務局が所管する公証役場に出向いて行う必要があった手続きがオンラインでも実施可能になるなど、利便性の向上が図られることが期待されています。
そこで本記事では、「公証制度」や「公証人の役割」などの基礎的な知識を紹介しながら、「公証人法」について改正が検討されているポイントを分かりやすく解説します。
公証制度はなぜ必要?公証人の仕事とは?
公証制度とはどのような制度なのでしょうか。公証制度の目的は、国民の私的な法的紛争を防ぎ、私人間(しじんかん)の法的関係を明確化したり、安定させたりすることにあります(※1)。例えば、公証制度が利用されるシーンとしては、遺言書の作成が挙げられます。遺言書は、相続人の指定や財産分与の割合など、財産などに関する権利関係を明らかにし、死後の無用な紛争を避ける効果を持ちます。
しかし、遺言書の作成については、法律に則った厳格な方式が定められているため、方式に従っていない場合、無効とされてしまうおそれがあります。また、悪意のある人物に廃棄・隠匿されてしまうこともあり得るでしょう。そうしたリスクを避けるために公証制度が利用されます。公証制度では、法務大臣に任命された公証人が、公正証書を作成することで、私人の意思表示や権利義務に関する事実などを公的に証明します。これにより、私人間の法的関係が明確化され、無用な法的紛争を防ぐことができます。
なお、公証人は公証人法の規定により判事、検事、法務事務官などを務めた法律実務経験者から任命されます。公証人は厳密には公務員ではありませんが、公証制度という公務を担うため、実質的には公務員とみなされています(※2)。また、公証人が執務する事務所のことを公証役場といい、公証役場は法務大臣が指定する所属法務局の管轄区域内に設置されます。
法務省によれば、現在、全国に約500名の公証人が存在し、公証役場は約300カ所設けられています。
公正証書にはどんな種類がある?
公正証書とは、個人または法人からの嘱託により公証人がその権限に基づいて作成する文書のことです。契約や遺言、不動産売買、融資など、さまざまなシーンで利用されていますが、ここでは以下の3つに分けて説明します。
契約に関する公正証書
土地や建物の売買、賃貸借、金銭貸借のほか、贈与、委任、請負など、さまざまな契約に関する公正証書です。金銭の支払いを目的とした公正証書の場合、債務者が強制執行に服すると記載されている際には執行力が備わります。つまり、債務者が契約などに従わなかった場合、債権者は裁判所などを通じて強制的に金銭を支払わせることができます。
単独行為に関する公正証書
一人の人物の意思表示の内容を公的に証明するための公正証書です。遺言書の作成でよく利用されます。公正証書による遺言書を遺言公正証書と呼び、作成者が自筆で作成した遺言書よりも、裁判における証明力の点で優れています。
事実実験公正証書
権利義務や意思表示に関する事実を、公証人が確認・記述した公正証書です。例えば、「銀行の貸金庫のなかに何が保管されているか」「土地の境界がどうなっているのか」といった事実を公証人が確認し、公正証書として記録することで、裁判などにおける証拠とすることができます。
オンライン公証の実現に向け、公証人法の改正を検討中
2022年6月、政府は経済社会の構造改革を推進することを目的として「規制改革実施計画」を策定。そのなかで「公正証書の作成に係る一連の手続きのデジタル化」を掲げています(※3)。書面・対面による行政手続きなどを見直し、オンラインでの完結などを目指す「構造改革のためのデジタル原則」(デジタル原則)に則り、オンライン公証を実現する構えです。
これを受け、同年7月、法務省は公正証書の作成を全面的にオンライン化するための改正公証人法案を作成する方針を明らかにしました(※4)。改正公証人法案は、来年の通常国会に提出予定であり、2025年前半からの運用が目指されています。
現行の公証人法では、本人や代理人が公証役場に出向き、公証人が対面で意思などを確認しながら公正証書を作成し、さらに、署名・押印を行う必要があります。しかし、改正後は、専用フォームで必要書類を提出後、Web会議システムを通じて公証人とやり取りし、署名・押印に代えて電子署名を用いる方式が想定されています。従来、公証役場に出向かなければ実施できなかった公正証書の作成が完全オンラインで実施可能になる形です。
例えば、以前から、アメリカでは電子署名や本人確認などの技術を用いたオンライン公証の制度が確立されており、この制度は Remote Online Notarization(RON)と呼ばれ、アメリカの各州に広がりを見せています。改正公証人法は、こうした制度の日本での実現を可能にします。
近年、不動産取引の電子契約が全面解禁になるなど、身の回りの制度のオンライン化が続いています。時間や場所に捉われないオンラインでの手続きは、私たちの便利で快適な生活を後押しし、ビジネスの効率化を促すに違いありません。今後も続くと予想される、さまざまな「オンライン化」に注目です。
おすすめ記事:日本版eNotary解禁と契約DXの現在地・未来像
参考: