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脱ハンコの手引書「地方公共団体における押印見直しマニュアル」を読み解く

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押印廃止の考え方や基準を示す目的で内閣府が地方公共団体向けに作成した『地方公共団体における押印見直しマニュアル』には、民間企業が参考にできるポイントも数多くあります。本記事では、マニュアルを読み解きながら、効果的な押印廃止の取り組みと実践方法を探っていきます。

目次

役所で書類に押印する市民

政府による「脱ハンコ」の政策が活発化するなか、地方公共団体でも行政手続きにおける押印廃止が進んでいます。『地方公共団体における押印見直しマニュアル(以下、「押印見直しマニュアル」)』は、押印廃止の考え方や基準を示す目的で内閣府が地方公共団体向けに作成したものですが、民間企業が参考にできるポイントも数多くあります。そこで今回は、本マニュアルを読み解きながら、効果的な押印廃止の取り組みと実践方法を探っていきます。

「地方公共団体における押印見直しマニュアル」とは?

2020年、内閣府が発行した『押印見直しマニュアル』は、行政手続きにおける認印の廃止、いわゆる「脱ハンコ」政策を受けて、地方公共団体に押印廃止の考え方や基準を示す目的で作成されました。

このマニュアルは、押印廃止の手順を示すとともに、「押印自体を見直すことが最終目的ではなく、行政サービスの向上を目的としている」として、手続き負担の軽減や業務のオンライン化、業務フローのデジタル化にも焦点が当てられています。単に手続きから押印を排除するのではなく、押印廃止を通じて、業務の効率化や高付加価値化を目指している点は、民間企業におけるDXの取り組みとも共通しています。以下では、その具体的な内容を確認しながら、企業でも活用できる脱ハンコのポイントを解説していきます。

押印廃止を実現するための「7つの手順」

『押印見直しマニュアル』では、押印廃止の手順が、7つの段階に分けて記載されています。

押印手直し手順のイメージ図

1. 組織の意思統一

押印廃止は、長年なじんできた業務ルールの変更を伴うため、不安や反発の声が挙がりやすい傾向にあります。そこで、首長などの幹部(民間企業の場合は、経営陣や役職者)がリーダシップを発揮し、各部門が押印見直しの目的や意義を理解して、前向きに押印廃止に取り組むための機運を醸成します。

2. 取組体制の構築

取組体制として、①推進部門②関係部門③手続所管部門を構築します。

  1. 推進部門:首長など幹部の指揮のもと、取り組みの中心となり、見直し方針や基準の策定、手続所管部門への検討依頼、回答の取りまとめなどを行います。

  2. 関係部門:推進部門が見直し方針や基準を策定する際に、専門的な見地からの協力が得られるよう、総務・人事などの組織内断的な制度・業務に関わる担当者を招きます。

  3. 手続所管部門:推進部門が決定した押印廃止の方針に沿って、各手続所管部門で押印の必要性を検討します。

3. 押印見直し方針の策定

推進部門が関係部門の協力を得て、押印廃止の方針を策定します。具体的には、見直しのスケジュール、対象とする手続き、押印見直し・署名見直しの基準の設定、押印を廃止した場合の実現可能な代替手段(電子署名など)の検討、手続所管部門と推進部門の検討・確認プロセスの方法(押印継続の場合は、理由書やヒアリングシートの提出義務付けなど)が挙げられます。

4. 押印を求める手続きの実態把握

組織内で押印を求めている手続きをリストアップします。リストアップの際には、照会様式を作成するのがポイントです。照会様式には「押印の種類」「押印の根拠」「根拠となる規定」などの欄を設けて各手続所管部門に照会し、その回答をもとに押印廃止の検討を進めます。

照会様式例

5. 押印廃止の検討

押印廃止の検討では、押印の根拠が法令や条例に基づいているのか、慣行で行われているのかに着目します。法令や条例などに基づいている場合は、法務部など関係部門と連携し、国や都道府県の最新の動向を踏まえて押印廃止を検討します。慣行で行われている場合は、「押印の合理性の有無」「押印の代替手段の有無」などに照らし合わせて、押印廃止を決定します。

6. 押印廃止計画の策定

押印廃止の手続きを決定したら、実施スケジュールや代替手段などを明記した押印見直し計画を策定します。策定後には、組織内に速やかに周知し、組織一体となって取り組みを推進します。

7. 押印廃止

手続所管部門は関係部門と連携し、押印廃止に必要な条例や様式の改訂を行います。施行日が確定したら、押印廃止によって手続きが変更となる対象者へ説明を行います。押印継続となった手続きについても、推進部門は手続所管部門と連携し、押印廃止の検討・確認プロセスを断続的に続けます。

上記7段階の「組織のトップがリーダーシップを発揮して機運を醸成し、推進体制を設けて、計画通りに押印廃止を進める」といった流れは、民間企業でも十分活用できる押印廃止の進め方ではないでしょうか。また、押印手続きのリストアップに用いる照会様式など、個別のツールを取り入れるのも有効です。この7つの手順には、行政、民間を問わず、押印廃止のポイントが詰まっていると言えるでしょう。

脱ハンコを実現した地方公共団体の事例

では、以上のような手順に沿って、実際に押印廃止に取り組んだ地方公共団体の事例を見ていきましょう。

福岡市

福岡市は、市長のトップダウンで押印廃止を呼びかけ、押印手続の実態調査、押印の根拠の確認と見直し方針などを進めました。さらに、幹部出席の会議「スマート⾏政推進会議」などで繰り返し押印廃止の必要性を説明し、組織内の意思統一を図りました。その結果、当初の予定よりも半年早く、市単独で見直しが可能な押印手続きをすべて廃止しています。この取り組みを受けて、福岡市担当職員は「職員の意識改革」が取り組みのうえで最も重要だと指摘しています。

大阪府

「はんこレス」「キャッシュレス」「ペーパーレス」の3つのレスを、令和元年12月開催のスマートシティ戦略会議にて知事が提言し、押印を求める手続きの棚卸調査を実施しています。その後、副知事が全部局に対して押印見直しを指示、押印を残す手続きについては副知事が個別にヒアリングを行うなど徹底的な見直しを行いました。大阪府担当職員は「業務フローを変えることなく押印義務を見直すことができるものも多かった」と述べ、いかに組織の機運を醸成するかがポイントだとしています。

福岡市と大阪府の事例からは「職員の意識改革」や「機運醸成」の重要性がうかがえ、押印廃止の『空気』をいかに作るのかが重要であることが分かります。

おすすめ記事:自治体の印鑑廃止はいつから?データでみるハンコの現状

経団連は「押印全廃」を提言。ますます加速する脱ハンコ

2020年に行政手続きの押印廃止が打ち出されて以降、脱ハンコの流れはますます加速しています。一例として、2022年4月、経団連は行政手続きにおける押印の全廃などを求める提言書を政府に提出しています(※2)。

このなかで、経団連は行政手続きや民間取引において、紙の書類の一切介在しない「デジタル完結」の実現を提言し、社会全体での押印・署名の全廃や、電子署名の法整備などに言及しています。

脱ハンコ、そして、デジタル完結が目指される昨今において、押印廃止はまさに待ったなしの取り組みと言えるでしょう。今回紹介した『押印見直しマニュアル』の内容は、新たな時代に適応するための示唆を与えてくれるに違いありません。

また、押印・署名の廃止が進むにつれて、電子署名や電子印鑑の活用も社会全体に広がっていくと見込まれます。『電子署名ソリューションの選び方〜検討すべき5つのポイント〜』では、電子署名の導入を検討する際にチェックすべき5つのポイントを解説しています。「電子署名の重要性はわかっているが、なかなか踏み出せない」「どのサービスを選べばよいかわからない」という方は、まずは情報収集から着手してはいかがでしょうか。

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出典:

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