2023年4月解禁!給与デジタル払いの仕組みやメリット・デメリットを解説
給与デジタル払いが解禁されることで、スマートフォンの決済アプリや電子マネーなどを利用して給与の支払い・受け取りができるようになります。給与デジタル払いとはどのようなものなのか、その仕組みやメリット・デメリット、導入に向けて企業が準備すべきことをわかりやすく解説します。
2023年4月1日から、給与のデジタル払いが開始されます。労働基準法施行規則の一部改正により、スマートフォンの決済アプリや電子マネーなどを利用して給与の支払い・受け取りができるようになりますが、企業および労働者にはどのような影響があるのでしょうか。本記事では、給与デジタル払いとはどのようなものなのか、仕組みやメリット・デメリットとともに分かりやすく解説します。
給与デジタル払いとは?
給与デジタル払いとは、銀行口座などの金融機関ではなく資金移動業者の口座に送金することにより、労働者に給与を支払う制度のことです。資金移動業者とは「資金決済に関する法律(以下、「資金決済法」)」に基づき、銀行以外の送金や為替取引サービスを提供する事業者のことで、80社以上(2023年3月時点)が登録されています。具体的には、PayPayマネー、LINE Pay(LINE Money)、楽天ペイ、メルペイといった、電子マネーやスマートフォンの決済サービスが該当します。
電子マネーと言えば、Suica や ICOCA、PASMO などの交通系電子マネーを思い浮かべる方も多いかと思いますが、これらの電子マネーも利用できるのでしょうか。実は、資金移動サービスには「預け入れた資金の現金化と送金が可能である」という特徴があり、Suica や WAON、nanaco などの電子マネーは前払い式でいったん入金してしまうと原則として出金はできず、また iD や QUICPay は後払い式となるため、デジタル払いの対象外となります。
なお、資金移動業者が厚生労働大臣の認可を受けるための登録申請は、令和5年4月1日から開始となります。審査には数ヶ月かかる見通しで、実際に企業から労働者に対してデジタル払いが可能になるのは早くても2023年後半になる見込みです。
給与デジタル払いの仕組み
給与の支払いについては、「賃金は、通貨で直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と労働基準法第24条で定められています。ただし、例外的に「厚生労働省令で定める確実な支払い方法」として、銀行の給与振込サービスを使った自動振り込みや、ATM/インターネットバンキングを通じた手動振り込みが認められています。
しかし、昨今のキャッシュレス決済推進の流れなどを受けて、新たに厚生労働省の指定を受けた資金移動業者のサービスを介して給与を支払えるようになります。これが「給与デジタル払い」です。つまり、給与の支払い方法が以下の3種類に増えることになります。
現金
銀行振込
デジタル払い
☞あくまで給与の支払い方法の選択肢が増えるだけで、必ずしも企業がデジタル払いに対応しなければならないというわけではありません。
なお、資金移動業者は資金決済法に基づいて金融庁より「第二種資金移動業」として登録を受けている必要がありますが、1口座あたりの受入上限額が100万円以下に規制されています。そのため、上限を超える場合、資金移動業者は超過した分を労働者が指定する銀行口座などに移動しなければなりません。
給与デジタル払いのメリット・デメリットは?
では、給与のデジタル払いのメリット・デメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。企業と従業員、それぞれの立場で見ていきます。
企業側
企業側のメリットとしては、振り込み手続きの迅速化や手数料などコストの削減が挙げられます。銀行振込に比べると資金移動業者の口座への送金手数料は一般的に安く設定されているため、振込手数料を節約できる可能性があります。また、これまで給与は月に1回の支給が妥当とされてきましたが、迅速な手続きが可能で手数料も安いのであれば、日払いや週払いなど複数回に分けての支給も検討できます。こうした取り組みは、従業員満足度、ひいては企業イメージの向上にもつながるでしょう。
また、銀行口座を持たない/開設できない労働者、例えば外国人労働者への給与支払い手段としても有望視されており、人材採用の幅を広げられる可能性もあります。ただし、現時点では資金移動業者の口座とあわせて代替となる銀行口座も登録が必要なため、銀行口座を保有していない場合は事実上デジタル払いは利用できません。
一方、デメリットについてはどうでしょうか。まずは、労働者の同意を得たり、口座情報の収集や就業規則の改定など、準備の段階でやるべきことがたくさんあります。また、デジタル払いは希望者のみが対象となり、さらに給与の一部のみデジタル払いを希望する労働者もいることが想定されるため、現行の給与支払い方法との二重運用が発生し、経理など担当部署の事務負担が大きくなるでしょう。
従業員側
最近では、買い物から公共料金の支払いまで、さまざまなシーンでキャッシュレス化が進んでいます。日常的に利用している電子マネーや決済アプリの口座で給与を受け取ることができれば、わざわざ銀行口座からお金を移す手間が省けます。また、複数回に分けて給与を受け取れる可能性もあります(各企業の方針によります)。
従業者側には大きなデメリットはありませんが、デジタル払いの対象となるのは厚生労働省が認可した資金移動業者のみになるため、希望の資金移動業者が使えない可能性があります。また、口座に入金できる金額に100万円の上限が設けられているため、支払われる金額や口座残高によってはデジタル払いで受け取れる金額が制限される場合があります。
なお、「弁護士法人プロテクトスタンス」のコラムでは、弁護士の視点から給与のデジタル払いのメリット・デメリットを解説しています。あわせてご覧ください。
給与デジタル払いに企業はどう備えるべきか
この先、企業が給与デジタル払いを採用する場合、どのような準備が必要なのでしょうか。
導入を検討する際には、従業員に対してアンケートを行って希望の有無を聞いたり、具体的なイメージを提示したりするのが良いでしょう。また、給与デジタル払いは雇用に関する大きな変更も伴います。実施する場合は、既存の労使協定や賃金規定の見直しも不可欠です。早い段階で採り入れようというのであれば、今から取りかかるのが良策と言えます。
なお、企業側の意思だけでデジタル払いへ完全移行することはできず、事前に労働者の同意を得る必要があります。同意書については、厚生労働省HPで「資金移動業口座への賃金支払いに関する同意書」のサンプルが公開されています。また、実際に同意書にサインしてもらう際には、電子署名サービスを使えばスムーズに必要な情報を収集することができ、煩雑なペーパーワークからも解放されます。
昨今、業務効率化やコスト削減、利便性の向上を目指し、あらゆる分野でデジタル化が推進されています。自社に合った形で、できるところからデジタル化を進めていくのがよいでしょう。
参考:
「特集 デジタル給与解禁 制度解説&実務対応」(ビジネスガイド 2023年2月号、日本法令)