海外の先進事例から学ぶデジタルトランスフォーメーション(DX)
デジタル化により社会やビジネスのあり方を変革するデジタルトランスフォーメーション(DX)。DX後進国と言われていた日本でも、テクノロジーを活用して業務の見直しを行うとともに、官民連携でDXを推進する動きが広がっています。今回は海外での先進的な事例を参考に、DXがもたらす変革の姿と未来への道筋を考えてみましょう。
デジタル化により社会やビジネスのあり方を変革するデジタルトランスフォーメーション(DX)。「欧米諸国に比べ遅れている」と言われていた日本でも、さまざまなテクノロジーを活用して業務の見直しを行うとともに、官民が連携してDXを推進する動きが加速しています。今回は海外での先進的な事例を紹介し、DXがもたらす変革の姿と未来への道筋を考えてみたいと思います。
業界の「常識」を変えた巨大プレーヤー
DXによって劇的なビジネス変革を遂げた事例として、まずご紹介したいのがアマゾン(Amazon.com)です。DXという言葉がまだ世に出る前の1994年に創業した同社は、それまで店頭での購入が常識だった書籍をインターネット上で販売するビジネスを開始しました。今でこそECサイトは一般的に知られる存在になっていますが、当時はまだ珍しく、同社は決済や物流といったさまざまな小売の仕組みをオンラインで実現する道を探り、構築していきました。革新的な事業展開が既存業者との軋轢を生むケースもありましたが、創業から20数年を経た現在、同社は多国籍EC企業として小売業界をリードしています。なお、同社はクラウドサービスの分野でもトップレベルのシェアを誇っていますが、これらの事業はいずれも「積極的なデジタル活用によって“常識“を打ち破る」という意思に基づいており、同社の取り組みはDXを考える上では見逃せません。
また、ビジネスを支えるソフトウェアの分野でも、DXの波は着実に広がっています。数多くのデジタルソリューションを提供するマイクロソフトは、DXを産業・経済の成長に欠かせない課題と捉え、DX推進をめざす幅広い業界に向けたサービスを展開しています。この姿勢はWindowsやOfficeなどのソフトウェアを「ライセンス売り切り型」から「クラウドサービスでの提供」に移行する施策や、パートナー企業との積極的な協業による新ビジネスモデル創出などでも示されており、自ら率先してDXを牽引するという意気込みが感じられます。
社会の「逆境」を打破する試み
2020年、コロナ禍によって世界が混乱する中で注目された出来事がありました。台湾ではDXにより社会のデジタル化が進められていたことを背景に、感染者のスマートフォン履歴から感染経路を割り出して検査を実施するほか、マスク不足を見越していち早く増産を決めるなどの迅速な対応策を次々に打ち出し、爆発的な感染拡大を食い止めました。まさに「対応のスピードがその後の結果を大きく左右する」という良い事例です。その理由として、台湾は社会のデジタル化が有事対応に必須であることを早くから認識していたことや、民間のスペシャリストをIT担当大臣に任命するなど、DX推進の環境が整っていたことが挙げられますが、この姿勢はコロナ禍という「逆境」において図らずも大きな成果をもたらし、「台湾モデル」として評価されています。
一方、コロナ禍は人の移動に制約を課すだけでなく、“お金のやりとり”にも影響を与えています。たとえば、多くの国が経済対策として国民への現金給付を行いましたが、給付までの期間は政府・自治体のデジタル化の程度によって大きく異なり、課題が浮き彫りになりました。また、金融業界はデジタル技術を活用したフィンテックに一層の期待を寄せていすが、このような状況の中、実店舗を置かずに銀行のサービスを提供する「チャレンジャーバンク」と呼ばれる企業が欧米を中心に誕生し、着実に成長を遂げています。DXの事例では最新テクノロジーの導入に目が行きがちですが、キャッシュレスを原則としたこれらの取り組みは「新しい生活様式」の形成にも役立つと考えられます。
あらゆる業界に広がるDXの波
DXの推進は、社会が長年にわたって築き上げてきた組織のあり方や業務の進め方を根本から変える可能性を持っています。自動車メーカーのフォルクスワーゲンは、これまで主に社外で行われていた車両制御、自動運転などのソフトウェア開発について、2025年までに60%を内製化すると発表しました。自動車は多くの企業が役割分担して作り上げるイメージがありますが、業務効率化やコスト削減の観点から内製化を進める動きが見られます。同社はデジタル化によって組み立て(繰り返し)作業の自動化を図るとともに、自動車の「頭脳」であるソフトウェアを自社開発することで競争力を高めたいとしています。これに伴い、人員削減や配置転換を行うことを発表しており、DXで企業としての姿そのものを変革する方針を打ち出しています。
DXはヘルスケア分野にも大きな変革をもたらしています。米国のメモリアル・スローン・ケータリングがんセンターでは、患者の属性情報をAIが分析して適切な治療方針を提示する仕組みが構築され、がん治療に成果を挙げています。また、中国の保険会社である平安保険は、チャットで手軽に医師の問診を受けられるアプリケーションを開発し、医療レベルの格差が課題となっていた中国で大きな支持を集めました。同社はアプリから得たデータをもとにした細やかなサービス提案ができるため、企業とユーザー双方にとって役立つDX事例となっています。
製薬業界では、DXによる「新たな価値創造」を実現するための活動を継続中です。コロナ禍克服に向けた動きが活発な現在、多くの製薬会社にとって治療薬・ワクチンの開発は至上命題となっています。世界各地から集められる最新データを迅速に集計・分析するためにデジタル化は必須の要素であるほか、新薬開発の現場でもテクノロジー活用は欠かせません。コロナ禍が業界のDX推進を加速させているとも言えますが、生命を守るという人類共通のテーマに基づく、価値の高い取り組みと言えるでしょう。
まとめ
本記事では海外におけるDX推進事例のいくつかを紹介しましたが、いずれのケースにも共通する特徴として、「失敗を恐れない前向きな姿勢」が挙げられます。DXには多額の投資が必要なほか、思うような成果が得られず軌道修正を強いられる場合も少なくありません。ただし、変革に失敗や困難はつきものであり、試行錯誤を繰り返す中でこそ、成功の道筋が見つかるとも言えます。慎重な姿勢は大切ですが、場合によっては大胆な決断やチャレンジも必要です。
技術開発分野で先進的な立場にある日本も、ことDXに関して言えば「後進国」などと評されています。危機感の高まりからか、最近は政府主導のDX推進策も発表されています。しかし政府の対応を待つだけでなく、テレワーク環境の整備や電子署名によるペーパーレス化の推進といったように、企業単位でデジタル技術を活用してどのように変革できるか考え、実現可能なところから着手してみるべきでしょう。
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