コンピューターは考えることができるのか?
イギリスの数学者アラン・チューリングは、理論的な計算機科学とAI(人工知能)の父と呼ばれており、世界で初めて「コンピューターは考えることができるのか?」と問いを投げかけた人物でもあります。本記事では、AIとは何かを振り返りながら、AIが契約管理やリーガルテックの分野でどのようなメリットをもたらすのかを紹介します。
イギリスの数学者アラン・チューリングは、理論的な計算機科学とAI(人工知能)の父と呼ばれています。彼はまた、世界で初めて「機械(コンピューター)は考えることができるのか?」と問いを投げかけた人物でもあります。
チューリングは1950年に発表した革新的な論文「Computing Machinery and Intelligence(計算する機械と知能)」で、「チューリング・テスト」という概念を提示しました。このテストでは、人間(判定者)が別の人間と計算機に対して、同じ質問をします。質問された人間と計算機は、どちらも判定者とは別の部屋にいて、端末を通じて判定者とコミュニケーションを行います。判定者が、どちらの回答者が人間でどちらが機械かを区別できなければ、その機械はチューリング・テストに合格したことになります(*1)。
チューリングは、2000年までには機械がこのテストに合格できるようになるだろうと推測していました。2022年現在、チューリング・テストに合格するコンピューターはまだ現れていません。しかし、AI(人工知能)は予想とは大きく違う形で発達し続け、ビジネスに革命を起こしています。
ドキュサインでは、契約書の検索および分析を行うAIを継続的に開発しています。もちろん、チューリング・テストに合格しようとしているわけではありませんが、私たちは合意・契約管理を今より少しでも賢明で楽なものにすることを目指しています。そこで本記事では、「AIとは何なのか?」を振り返りながら、AIが契約書の作成からレビュー、さらにその先のプロセスをどう変えつつあるのかを紹介します。
*1 ZDNet「Google Duplex beat the Turing test: Are we doomed?」
AI(人工知能)の今
SF小説や映画の中では、21世紀のAI(人工知能)がかなり非現実的な姿に描かれてきました。現代の人工知能システムは、『2001年宇宙の旅』(およびその続編)のHAL 9000や『新スタートレック』のデータ少佐のような、言語を使って人間と会話し、チューリング・テストにも合格するAIとはかけ離れています。
現実社会におけるAIは、数学的原理を使って人間の生活を便利にするためのタスクを実行するソフトウェアです。AIはひとつのシステムであり、そのシステムは膨大な量のデータを処理してパターンを見出し、そこからモデルを構築します。そしてAIが次に新たなデータセットを分析する際には、構築したモデルに基づいて、人間には極めて特定しにくいパターンを検出できるようになります。例えば、目の前に10万件の契約書があり、それらの契約書にどんなリスクがあるのかを調べてくだいと依頼されたとします。それだけの量の契約書をチェックしてリスクを見つけるには、いったい何人のスタッフが必要で、どのくらいの時間がかかるでしょうか。
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AIは「契約」をどう変えるのか?
AIはすでに、ビジネスプロセスにメリットをもたらしています。ドキュサインの製品の一つ「Docusign CLM+」に搭載されているようなAIを活用した契約分析機能は、企業が契約ライフサイクル全体の効率化を図り、リスクを減らし、ビジネスチャンスを発見する手助けをすることに特化して設計されています。
契約分析AIは、そうしたタスクを成し遂げるために人間の理性や判断を使用しません。代わりに、機械学習、自然言語処理、さらには潜在意味解析(LSI)などの関連技術を駆使して、ビジネス用語や法律用語を識別し、抽出して分析します。
この技術は、キーワード検索のような単純なテキスト分析を拡張し、発展させたものです。検索エンジンの場合は、ユーザーが入力した単語やフレーズを受けて、それらの単語やフレーズが含まれる文書を表示します。それに対し、十分に学習された精度の高い契約分析AIシステムは、概念に基づいて検索を行います。つまり、検索キーワードそのものが文書内にあるかどうかにかかわらず、検索内容の文脈に関連するすべての箇所を見つけ出します。概念に基づく検索・分析能力は、単なる単語検索をはるかに超える可能性を秘め、新しいタイプの分析を実現します。
効率的な分析
従来、法令や規制の変更によって影響を受ける可能性のある契約を判別することは、とても大変な作業でした。すでに締結済みの契約を何時間も、あるいは何日もかけて隅から隅まで読み、対応が必要な契約とそうでない契約を特定し、それらの分類と優先順位付けに多くの時間を費やしていたのです。言い換えると、ビジネスを成長させるための活動ではなく、契約書の分類に延々と時間を費やしていました。
契約分析AIを用いたシステムがあれば、企業はどの契約が関連する規制の対象でどれが対象でないかを、十分に学習されたAIのパターン認識能力によって特定することが可能になり、以下のようなトピックに関連する用語を検索できます。
準拠法、法的管轄、紛争解決
責任の制限
不可抗力と事業の継続
データのプライバシーとセキュリティ
譲渡とチェンジオブコントロール(支配権の移転)
重要なデータポイントは他にも多数あり、上記はそのほんの一部です。AIはこうしたデータの有無を判定して提示し、それを基に、ユーザーは「この法律やビジネス要件についてアクションを起こす必要があるか」という問いに答えられるようになります。
契約の理解
たとえ契約書の文言が組織全体で標準化されていても、ほとんどの場合、単純なキーワード検索では不十分です。例えば、何らかの大惨事が発生した場合にサプライヤーとの関係にどのような影響があるかを知りたいとします。契約分析AIが搭載されたシステムなら、「不可抗力」という特定の言葉が実際に条項の中に含まれているかにかかわらず、あらゆるサプライヤー契約におけるすべての不可抗力に関連する条項を見つけ出すことができます。
契約分析AIによる分析はまた、人間の分析では不可能かそれに近いような方法で、迅速に検証することができます。統計的に測定可能な結果を出すコンピューターシステムとして、企業は自社の法務部門や契約チームの専門知識を効果的に補完するような形で契約分析AIを活用できます。
円滑なレビュー
契約分析AIは、ユーザーが設定したパラメーターに基づいて、契約書を分析します。そのため、レビューの際に非常に役立つツールになります。契約分析AIシステムは、ヒューマンエラーのリスクを減らすと同時に、以下のような方法で分析プロセスをスピードアップさせます。
新規契約に関する条項と条件を抽出
事前に社内で設定されたパラメーターに基づいて、抽出されたセクションのリスクレベルをランク付けするロジックを適用
潜在的リスクの高い文言を特定し、社内で事前承認された条項ライブラリから代替案を提案
契約分析AIは、公正な取引とは何か、どの程度のリスクが許容されるのかは教えてくれません。しかし、レビュープロセスの中の1つのステップとして利用すれば、その企業が設定したパラメーターに従って、求める情報を迅速かつ確実に提供してくれます。私たちはそれらの情報を参考に、自ら考え、意思決定を行うことができます。
結局、コンピューターは考えることができるのか?
2022年現在、「コンピューターは考えることができない」というのが私たちの答えです。しかし、コンピューターの性能が大きく向上する中、AIは驚くべきスピードで進化し、さまざまな分野で利用が広がっています。それは、契約管理やリーガルテックの分野でも同様です。AIは契約書の検索や分析につきものの面倒で手間のかかる作業を効率化し、私たちは「考える」ことにより多くの時間を費やすことができるようになります。
今後、AIはどのような進化を遂げるのでしょうか。『将来何ができる? AI(人工知能)の現在と未来』では、具体的にAIがどのような用途で活用されているのか、そしてどのような可能性を秘めているのかを紹介しています。AIによって私たちの生活がどのように変わるのか、そのヒントが見つかるかもしれません。
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※本ブログは「Can Computers Think?」の抄訳で、日本向けに一部加筆修正しています。